背後向うしろむ)” の例文
洋服の男は女の肩のあたりに手をやろうとして、体の向きを変えて背後向うしろむきになった。女は見向みむきもせずにその前をつかつかと通ろうとした。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
階子段はしごだんから声を掛けて、二階の六畳へあがり切らず、欄干てすりに白やかな手をかけて、顔をななめのぞきながら、背後向うしろむきに机に寄った当家の主人あるじに、一枚をもたらした。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顔の綺麗なその良人は、ごりごりした帯や袴の紐に金鎖をからませながら、ぬッとした顔をして出て行った。嫁はそれから隅の方で、背後向うしろむきになって自分の支度に取りかかろうとした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
浴室ゆどのだ、浴室ゆどのだ。ておいで。と女中ぢよちゆう追遣おひやつて、たふむやうに部屋へやはいつて、廊下らうか背後向うしろむきに、火鉢ひばちつかまつて、ぶる/\とふるへたんです。……老爺おぢいさん。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして、ごろりと背後向うしろむきになってだるい目をつぶろうとした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
四辺あたりみまはし、衣紋えもんなほして、雪枝ゆきえむかつて、背後向うしろむきに、双六巌すごろくいはに、はじめはこしける姿すがたえたが、つまはなして、ばんうへへ、すみれ鼓草たんぽゝこまけて、さいつてよこた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)