さと)” の例文
それに江戸表は公儀の眼が光っているので、物の利害を読むことにさとい大膳正は、大して羽目を外すようなこともしなかったのです。
怜悧れいりなる商人を作り、敏捷びんせふなる官吏を作り、寛厚にして利にさとき地主を造るに在り。彼は常に地上を歩めり、彼れは常に尋常人の行く所を行けり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
利にさとい商人たちはこれにつけ込みましたから、非常な早さで蔓延はびこりました。そのため手間のかかる本藍はこれに立ち向うことがむずかしくなりました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
或る日すてが寝ている間に袴野は赤ん坊を抱き上げようとして、耳さといすてに発見された。何する、と、すては叫んで赤ん坊を自分のむねに抱きめた。
幼いからのさとさにかわりはなくて、玉・水精すいしょうの美しさが益々加って来たとの噂が、年一年と高まって来る。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
盛名を保つにさとかったであろうが、綾之助を情にもろくまけない女に教育したのは、七歳の年から無心で語っていた義太夫節が、知らず知らずの間に教えた強いものが
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
突然韃靼人だつたんじんが何やら聞き付けました。一体韃靼人といふ奴は、耳のさとい人間です。そこでわたくしも気を付けて聞いて見ました。どうも耳に漕いで来るの音が聞えるやうです。
姉は今年十五になり、弟は十三になっているが、女は早くおとなびて、その上物にかれたように、さとさかしくなっているので、厨子王は姉の詞にそむくことが出来ぬのである。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しっとりしていて物事のくくりをちゃんと知っているさとい子供だわ。妾は始終家を留守にしているけれど、あの子がいて呉れるから万事安心と言うものだわ。それに……(行詰る)
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
けれど決して鼠一疋いっぴきといえども其処を通ったものはさとらずにはいない。それ程、彼の霊魂はさとくあった。老人自身でもよくいうのに、肉体が衰えれば精神はそれだけさとくなるものだと。
薔薇と巫女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
カイザアたる孤高の宿命にさとくも殉ぜむとする凄烈せいれつの覚悟を有し、せめて、わがひとりの妹、アグリパイナにこそ、まこと人らしき自由を得させたいものと、無言の庇護を怠らなかった。
古典風 (新字新仮名) / 太宰治(著)
さとき子らかなやあはれ夜に聴きてかはづ啼くころろと啼くよと聴きをる
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「さいです。自慢じゃありませんが耳はさといですわ」
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「そなたは、こころのさとい方、大ていのみ込んでくれたであろ。不思議な縁で、したしくなったからは、わしが良ければそなたにもよし、そなたがよければ、わしもよいというようにやって行って貰いたい。な、頼みますぞや」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
幼いからのさとさにかはりはなくて、玉水精すゐしやうの美しさが加つて来たとの噂が年一年と高まつて来る。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
なるべく音のしないように、そして耳のさとい娘にもさとられないように注意して歩いて行った。
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
多く工夫せられ多く作為せられた器が、無心の器に優る美を示し得たことはかつてなく今もなく永えにないであろう。「これらの秘義はさとき者と賢き者とには隠されてある」
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
主人の七郎兵衛というのは、町人には相違ありませんが、四十五六のあまり丈夫そうではない男で、色の青黒い、毛の多い、高い鼻と細い眼が特色で、何んとなく利にはさとい人柄に見えます。
眼のさとさ、なやましさ。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
姫の心は、こだまの如くさとくなって居た。此才伎てわざ経緯ゆきたては、すぐ呑み込まれた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
姫の心はこだまの如くさとくなつて居た。此才伎てわざ経緯ゆくたてはすぐ呑み込まれた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
其で、男女は唯、長老の言うがままに、時の来又去った事を教わって、村や、家の行事を進めて行くばかりであった。だから、教えぬに日月を語ることは、極めてさとい人の事として居た頃である。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)