聞達ぶんたつ)” の例文
かれ平凡へいぼんぶんとして、今日こんにちまできてた。聞達ぶんたつほどかれこゝろとほいものはなかつた。かれはたゞありまゝかれとして、宜道ぎだうまへつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
彼また名利に走らず、聞達ぶんたつを求めず、積極的美において自得したりといへども、ただその徒とこれを楽むに止まれり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
厳かな閲兵えっぺいの後、李天王りてんのう李成りせい聞大刀もんだいとう聞達ぶんたつ、二将の号令のもとに、全軍、中書台ちゅうしょだいに向って、最敬礼をささげ、また、三たびの諸声もろごえを、天地にとどろかせた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『臣モト布衣ほいみづかラ南陽ニ耕シ、いやしくモ生命ヲ乱世ニ全ウシテ聞達ぶんたつヲ諸侯ニ求メズ』
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まずその卑近ひきんなる快楽主義と、大それたる利己一天張りに陥るというが如きは見逃すべからざる弊だ。支那の官人には奉公の赤誠が尠ない。彼等はただ単に自己一身の栄誉聞達ぶんたつを欲している。
今の士相率きひて、媚を権門にれ、かんを要路に通ずるは、その求むるところ功名聞達ぶんたつよりも、むしろ先づ黄金を得んと欲するの心急なればなり。その境遇や憐れむべし。その志操や卑しむべし。
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
聞達ぶんたつが第二の新手をくりだしておりますから、一そうそれを強めるため、城壁にはさらにるいをかさね、砲石、踏弓ふみゆみ火箭ひや、目つぶし、あらゆる防禦物を揃えて、守備に怠りないことです
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蕪村もと名利を厭ひ聞達ぶんたつを求めず、しかれども俳人として彼が名誉は次第に四方雅客がかくの間に伝称せらるるに至りたり。天明三年十二月廿四日夜歿し、亡骸なきがらは洛東金福寺こんぷくじに葬る。享年きょうねん六十八。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
聞達ぶんたつほど彼の心に遠いものはなかった。彼はただありのままの彼として、宜道の前に立ったのである。しかも平生の自分よりはるかに無力無能な赤子あかごであると、さらに自分を認めざるを得なくなった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
臣はもと布衣ほい、みずから南陽に耕し、いやしくも性命を乱世に全うし、聞達ぶんたつを諸侯に求めざりしに、先帝臣の卑鄙ひひなるを以てせず、みだりにおんみずから枉屈おうくつして、三たび臣を草廬にかえりみたまい
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)