めぐ)” の例文
いたずら歳月としつきを送ッたを惜しい事に思ッているのか? 或は母の言葉の放ッた光りに我身をめぐ暗黒やみを破られ、始めて今が浮沈の潮界しおざかい
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
路はすべて杉の立樹の蔭につき、めぐめぐりて上りはすれど、下りということ更になし。三十九町目あたりに到れば、山にわかに開けて眼の下に今朝より歩み来しあたりを望む。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
乱れ起る岩石を左右にめぐる流は、いだくがごとくそと割れて、半ばみどりを透明に含む光琳波こうりんなみが、早蕨さわらびに似たる曲線をえがいて巌角いわかどをゆるりと越す。河はようやく京に近くなった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
隣に養へる薔薇ばらはげしくんじて、と座にる風の、この読尽よみつくされし長きふみの上に落つると見れば、紙は冉々せんせんと舞延びて貫一の身をめぐり、なほをどらんとするを、彼はしづかに敷据ゑて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ちかく水陸をかぎれる一帯の連山中に崛起くっきせる、御神楽嶽飯豊山おかぐらがたけいいとよさんの腰を十重二十重とえはたえめぐれる灰汁あくのごときもやは、揺曳ようえいしていただきのぼり、る見る天上にはびこりて、怪物などの今や時を得んずるにはあらざるかと
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八回半めぐらすを得べし。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
梧桐の影深く四方竹の色ゆかしく茂れるところなどめぐめぐり過ぎて、さゝやかなる折戸を入れば、花も此といふはなき小庭の唯ものさびて、有楽形うらくがたの燈籠に松の落葉の散りかゝり
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
下に動くときも上に揺り出す時も同じ様に清水しみずなめらかな石の間をめぐる時の様な音が出る。只その音が一本々々の毛が鳴って一束の音にかたまって耳朶じだに達するのは以前と異なる事はない。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
梧桐あおぎりの影深く四方竹の色ゆかしく茂れるところなどめぐめぐり過ぎて、ささやかなる折戸を入れば、花もこれというはなき小庭のただものさびて、有楽形うらくがた燈籠とうろうに松の落葉の散りかかり
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)