粟粒あわつぶ)” の例文
苦しく切ない稲妻いなずまがもぬけの私の身体の中を駆け廻り、ところ/″\皮膚を徹して無理な放電をするから痛い粟粒あわつぶが立ちます。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
しばらく踏んでいると、やがて、粟粒あわつぶのようなものが、鼻へ出来はじめた。云わば毛をむしった小鳥をそっくり丸炙まるやきにしたような形である。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たてかけてあるかべの隅の所へしゃがみむと小さなピンセットでまるで粟粒あわつぶぐらいの活字を次から次と拾いはじめました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
もし粟粒あわつぶにして挽臼ひきうすの下にあって考うることをするならば、それは疑いもなくジャン・ヴァルジャンが考えていたと同じことを考えるであろう。
第十五 ジャミヤのマッシ これは粟粒あわつぶに似たようなもので外の品より少しザラザラしますが味はなかなか結構です。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
慌てる紋は泡沫あぶくのよう。野袴のばかますそ端折はしょって、きゅうのあとを出すのがある。おお、おかしい。(微笑ほほえむ)粟粒あわつぶを一つ二つとかぞえて拾う雀でも、俄雨にわかあめには容子ようすが可い。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あくる日、かの怪しい奴らの来たらしい跡をさがしてみると、東の古い階段の下に、粟粒あわつぶほどの小さい穴があって、その穴から守宮やもりが出這入りしているのを発見した。
芸術と云ったようなものに、粟粒あわつぶほどの理解も持っていない父が悲しかった。絵を描くことを、ペンキ屋が看板を描くのと同じ位にいやしく見貶みくだしている父の心が悲しかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
顔は青ざめ、鼻の頭には粟粒あわつぶの様な汗の玉が浮かんでいた。庄太郎はひそかに計画の奏効を喜んだ。彼はその問題のボールの打者が、外ならぬ二郎自身であったことを知っていたのだ。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その面積を以てすれば、眇爾びょうじたる日本国も、彼らの脳中には、余りに偉大にして、遂に理想するあたわざりき。如何に豆の如く小に、粟粒あわつぶの如く多くの国家が、この日本に并存したるよ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
小供の背丈せだけほどもある昼間見ると藜藿あかざのような草と粟粒あわつぶのような微紅うすあかい実をつけた草がぎっしり生えた住宅地の入口に、人の足によって通じた一条ひとすじの路がうっすらと微月うすづきの光に見えていた。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
適当な場所に粟粒あわつぶ程のぼたんまでつけてあるし、娘の乳のふくらみと云い、腿のあたりのなまめいた曲線と云い、こぼれた緋縮緬ひぢりめん、チラと見える肌の色、指には貝殻かいがらの様な爪が生えていた。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小さなピンセットでまるで粟粒あわつぶぐらいの活字かつじつぎからつぎへとひろいはじめました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)