粘々ねばねば)” の例文
ただ黒いかめを一具、尻からげで坐った腰巻に引きつけて、竹箆たけべら真黒まっくろな液体らしいものを練取っているのですが、粘々ねばねばとして見える。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もがけばもがくほど粘々ねばねばしい瀉の吸盤に吸ひ込まれて、苦しまぎれに斷末魔、爪を掻きちらした一種異樣の恐ろしい粘彩畫の上を
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
(牛の肉の中で一番上等がの舌だといふのは可笑をかしい。よだれで粘々ねばねばしてる。おまけに黒い斑々ぶちぶちがある。歩け。こら。)
種山ヶ原 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
そのきれいな貝殻は、見すぼらしい粘々ねばねばした動物の家だ。お伽話の中の妖精も、こんなにきれいなものは持つてゐない。まあ、なんてきれいなものだらう!
三日、四日と少しは慣れたものの、腹に一物も無くなつては、「考へて見れば目的めあての無い旅だ!」と言つた様な、朦乎ぼんやりした悲哀かなしみが、粘々ねばねばした唾と共に湧いた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
粘々ねばねばとして、弾力を持った、暖かい彼女の舌が、さぞ醜くいであろう傷の上を、引ずるように、過ぎる度に、黒吉の昂ぶった神経は、ズーン、ズーンと半身を駈下って、足元に衝突した。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
少し粘々ねばねばしすぎる。
大阪を歩く (新字新仮名) / 直木三十五(著)
(牛の肉の中で一番上等じょうとうの舌だというのは可笑おかしい。よだれで粘々ねばねばしてる。おまけに黒い斑々ぶちぶちがある。歩け。こら。)
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
十歩ばかり先に立って、一人男のつれが居た。しまがらは分らないが、くすんだなりで、青磁色の中折帽なかおれぼうを前のめりにした小造こづくりな、せた、形の粘々ねばねばとした男であった。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手を取って引立ひったてられた——宰八が見た飛石は、魅せられた仁右衛門の幻の目に、すなわち御新姐の胸であったのである、足もまだ粘々ねばねばする、手はこの通り血だらけじゃ、とおののいたが
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日中ひなか硝子ビイドロを焼くが如く、かっと晴れて照着てりつける、が、夕凪ゆうなぎとともにどんよりと、水も空も疲れたように、ぐったりと雲がだらけて、煤色すすいろの飴の如く粘々ねばねば掻曇かきくもって、日が暮れると墨を流し
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
口中に熱あり、歯の浮く御仁、歯齦はぐきゆるんだお人、お立合の中に、もしや万一です。口の臭い、舌の粘々ねばねばするお方がありましたら、ここに出しておきます、この芳口剤で一度うがいをして下さい。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)