はま)” の例文
たまたまそういう人がありとするも、そは年来の予定の行動の一部をなしたのでなく、むしろ計らずその地位にはまったという場合が多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
見給え、ちょうどスープ鍋が半分ほどスポリとはまるようになって上の方に小さなあながポツポツいている。形状は先ず太鼓胴たいこどうで深さが非常に深い。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
例へば、余り善良なものは却つてあく人であるかの如くおびえるものだといふシヱクスピヤの言事は高橋に当はまるだらう。
高橋新吉論 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
ここに時計屋が仕事をしていた筈だと見て行くと、往来に接して窓に鉄の格子のはまった黒い土蔵造の家がある。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
またこのけものを拝し、ひけるは、誰かこの獣の如きものあらんや、誰かこれと戦ひをなすものあらんや……ね、まる独帝カイゼルはまるだらう、所が次を見給へ
その狭い横町をずうッと抜けると田圃たんぼに出て、向うがすうっと駒込の方の山手に続きかすかに藪蕎麦やぶそば灯火あかりが残っている。田圃道で車の輪がはまって中々挽けません。
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それはようございます。あなたが身の利益になるような事情に当てはまって来た折を見て、いよいよあなたの本性を顕わしてあなたの便宜を謀り、そうして日本人の名誉を
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
菊五郎ももとぼつとをかくる人ならず、ただ申歳さるどしからの思ひ付で出したものなれば、はまらぬはもっともとはいひながら、売込んだ愛敬を振廻し、やたらに気を利せ、洒落しゃれを云ふため
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
砕けた腰がまたはまると、揉手もみでをして取りつき、右が入って抱き込んだかと思うと、勝手が悪いと見えて捲き直してみたり、諸差もろざしになったから、もうこっちのものと思っている途端に
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
四角のものが円きところにはまらんとするといったが、実にそのとおりで、おそらくなんの職業にしても、これに従事せる人につきいちいちに調べたならば
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
人物も光俊は綿密家にてよく何事にも行届きし人の様に思はるる故、其所そこにははまりたり。物語は立派にて、心底を明さぬくだりも光俊の品位を保ちてよし。乗切を見せぬは利口物なり。
只だ窓々に鉄網かなあみが張ってあるだけの事、また屋敷の向う側の土手に添うて折曲おりまがった腰掛がありまして、丁度白洲しらすの模様は今の芝居のよう、奉行のうしろにはふすまでなく障子がはまっていまして
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
姉の家から細い路地を曲つて行くと、鼈甲屋べつかふや、時計屋などのある銀座の裏通りの町、そこにある黒い土藏造りの豐田さんの家、鐵格子のはまつた窓などは、私には既に親しいものでした。
「一息にこのみぞを飛ぶんだぞ、するとその拍子にあごはまるからな。」