看過かんか)” の例文
これはなかなか大切な事で、婦女子は未来の国民を造るのでありますから、その国の婦女子の事を軽々けいけい看過かんかすることは出来ない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
特に、「妻呼びたてて辺に近づくも」、「沖浪高み己妻ばふ」の句は、なかなか佳いものだから看過かんかしない方がよいとおもう。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
如何どうしても自分には偶然の出来事として看過かんかすることは出来ない、これは一つ哲学者の一考をわずらわしたいものである。
頭上の響 (新字新仮名) / 北村四海(著)
最近死んだ妻のこともけろりと忘れたように陽気にしているブラドンを、看過かんかすることはできなかったのだ。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
さはさり乍ら、この店主、姓をサカチタとは申さで、坂下であるのを看過かんか出来ないのが、僕の性分である。
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
遺跡文献の甚だ乏しい武蔵の伝記検討には、こんな一些事さじに見える事がらでも、古人の胸底をさぐる秘鍵ひけんとして、私には簡単に看過かんかすることができないのである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この点については我輩わがはいも氏の事業を軽々けいけい看過かんかするものにあらざれども、ひとあやしむべきは、氏が維新のちょうきの敵国の士人と並立ならびたっ得々とくとく名利みょうりの地位にるの一事なり
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
最後の奴は御鄭寧ごていねいにも阿呆阿呆と二声叫んだ。いかに温厚なる吾輩でもこれは看過かんか出来ない。第一自己の邸内で烏輩からすはいに侮辱されたとあっては、吾輩の名前にかかわる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
然れども今これを絵画的効果の上より論ずれば決して軽々けいけい看過かんかすべきものに非ざるなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
海を制する力に、また黎明の絶美の中に彼はあきらかに見ゆる。人はこれを無意味に看過かんかする。しかし信仰の眼を以てすればそこに神は見ゆるのである。しかり、そこに神は見ゆるのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ことに殿下は一切智者にして慧海の入国を寛大に看過かんかし、しかして私にその秘密の教えを授けられたのはそもそも由縁ゆかりある事でございましょう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
すなわちこれ我輩わがはいが榎本氏の出処しゅっしょ所望しょもうの一点にして、ひとり氏の一身のめのみにあらず、国家百年のはかりごとにおいて士風消長しょうちょうめに軽々けいけい看過かんかすべからざるところのものなり。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
敵将尊氏のこのうごき方は、義貞として、むろん看過かんかできないものだった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かかる事を確かに聞きながら余所事よそごと看過かんかして国に帰るということはどうしても出来ません。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
畢竟ひっきょう記者は婚姻契約の重きを知らず、随て婦人の権利を知らず、あたかも之を男子手中の物として、要は唯服従の一事なるが故に、其服従のきわみ、男子の婬乱獣行をも軽々けいけい看過かんかせしめんとして
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)