目前めのまえ)” の例文
我々は客車の窓に二つの首を見た、カラタール氏が下に、ゴメズが上に、しかし二人は目前めのまえに見たもののために、叫声さけびごえももはや凍ってしまったようだ。
あきれもしない、目ざすかたきは、喫茶店、カフェーなんだから、めぐり合うも捜すもない、すぐ目前めのまえあらわれました。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
太郎左衛門はそのへやへ出入して、二人の者をいたわっていたが、その目前めのまえにはわかい白い顔が浮ぶようになっていた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
四人の死骸なきがらは谷中へ埋葬いたし、老人も落胆がっかり遊ばしていると、跡にとり残された岩次でございますが、まだ年も若いにいろ/\奇異のことを目前めのまえに見きゝいたし
真理なしとせば宇宙をささゆる法則なし、法則なしとせば我も宇宙も存在すべきの理なし、ゆえに我自身の存在する限りは、この天この地の我目前めのまえに存する限りは、余は神なしと信ずるあたわず
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
俯向うつむいて、じっと目をねむると……歴々まざまざと、坂下に居たそのおんなの姿、——うすもの衣紋えもんの正しい、水の垂れそうな円髷まるまげに、櫛のてらてらとあるのが目前めのまえへ。——
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
挙動しぐさ唐突だしぬけなその上に、またちらりと見た、緋鹿子ひがのこ筒袖つつッぽの細いへりが、無い方の腕の切口に、べとりと血がにじんだ時のさま目前めのまえに浮べて、ぎょっとした。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薄情とは言われまいが、世帯の苦労に、朝夕は、細く刻んでも、日は遠い。年月が余りへだたると、目前めのまえの菊日和も、遠い花の霞になって、夢のおぼろが消えてく。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
釣鐘が目前めのまえへぶら下ったように、ぎょっとして、はっと正面へつままれた顔を上げると、右の横手の、広前ひろまえの、片隅に綺麗に取って、時ならぬ錦木にしきぎ一本ひともと、そこへ植わった風情に
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)