)” の例文
そのことあって以来、ヒルミ夫人の頬がにわかにけ、瞼の下にくろずんだ隈が浮びでたのも、まことに無理ならぬことであった。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
「許して呉れ給え、金は盗られた……」と云いかけると、向うの方から例の頬のけた男が二三人の人に囲まれながら歩いて来て、私に声をかけた。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
彼はそう思って姉のくぼみ込んだ眼と、けたほおと、肉のない細い手とを、微笑しながら見ていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
眼は落ち窪み 頬はげているが、やさしいたちの男らしかった。獣神にもこんな男がいるのか。女は眼を瞠った。ただ顔立ちに似気なく厚肉の唇はなまの情慾に燃え血を塗ったようだった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
頬はいたけて、まなこ窅然がっくりくぼみていたり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もうはなからけむを出すのがいやになつたので、腕組うでぐみをして親爺おやぢかほながめてゐる。其かほにはとしの割ににくが多い。それでゐてほゝけてゐる。まゆしたかはたるんで見える。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
鏡に写った僕の顔は、一夜のうちに頬がゲッソリけ、寝不足の眼は真赤に充血していた。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「えっ、やられた?」私に忌々いまいましい暗示を与えた頬のけた男は腰を浮かして低声こごえで叫んだ。その拍子に膝の上の南京豆の鑵がガチャンと床に落ちた。二三人の乗客が私の方を吃驚びっくりしたように見た。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
もう鼻からけむを出すのが厭になったので、腕組をして親爺の顔を眺めている。その顔には年の割に肉が多い。それでいて頬はけている。濃いまゆの下に眼の皮がたるんで見える。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)