疎々うとうと)” の例文
固より根がお茶ッぴいゆえ、その風には染り易いか、たちまちの中に見違えるほど容子ようすが変り、何時しか隣家の娘とは疎々うとうとしくなッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼らとは思いのほか疎々うとうとしくなっている私の耳にも入っていたが、今は健康も恢復かいふくして、春ごろからまた毎日大阪の方へ通勤しているのであった。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
キリストの精神を無視した俗悪な態度だといきまいたが、親佐がいっこうに取り合う様子がないので、両家の間は見る見る疎々うとうとしいものになってしまった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
疎々うとうとしくふるまう相手を、内々高く買っていたり、君の場合などがそうで、案外高く信頼されているのだよ
ジロリの女 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
なんでもこんな事を下々しもじもに聞かせてはならない。昨日奥さんの御病気になられたのでからが、御隠居様を疎々うとうとしくなされた罰だなんぞとささやき合っているらしい。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
けれどもそれらは決して私と漱石氏との間を疎々うとうとしくするほどの大事件ではなかった。漱石氏の家で毎週催おされる木曜会には私は主な出席者の一人であった。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
私と香川礼子の間は、此の血腥さい事件を転機として、妙にこじれて、疎々うとうとしくなって行きました。
青年も、美奈子が、——一度あんなに彼に親しくした美奈子が、またてのひらかえすように、急に再び疎々うとうとしくなったことが、彼の責任であることに、彼も気が付いていなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そういう時勢であったから椿岳は二軒懸持かけもちの旦那であごでていたが、淡島屋の妻たるおくみは男まさりのかぬ気であったから椿岳の放縦気随にあきたらないで自然段々と疎々うとうとしくなり
朝から晩まで戸外そとに居るが、その後妻のお兼とお柳との関係なかが兎角面白くないので、同じ家に居ながらも、信之親子と祖父母や其子等(信之には兄弟なのだが)とは、宛然さながら他人の様に疎々うとうとしい。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
宮は疎々うとうとしい待遇を受けるというような恨みを述べておいでになった。
源氏物語:25 蛍 (新字新仮名) / 紫式部(著)
うれしきは月の客人まれびと、つねは疎々うとうとしくなどある人の心安げによりたる。男にても嬉しきを、まして女の友にさる人あらば、いかばかり嬉しからん。みづからいづるにかたからばふみにてもおこせかし。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
が、その内にふと嬉しく思い惑う事に出遇であッた。というは他の事でも無い、お勢がにわかに昇と疎々うとうとしくなった、その事で。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
一度自分に附文つけぶみなどをしてから、妙に疎々うとうとしくなっていたあの男が、婚礼の晩にどんな顔をして来るかと思うと、それが待遠しいようでもあり、不安なようでもあった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
考えて疎々うとうとしくしているうちに、可哀相に妹の奴が殺されてしまったのだよ
田舎にいる母親の時々の消息を通して、やっと生死がわかるくらい、二人のなかは疎々うとうとしかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)