物具もののぐ)” の例文
その時、絶壁の遥か上、高原に当たって騎馬武者の音、馬のいななき、物具もののぐひびき、それらにまじって若い女の悲鳴がかすかに聞こえて来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
董承もそれに励まされて、物具もののぐを着こみ、槍をひッさげ、郎党の寄せる馬上へとび移るや、つづみうしおとともに、相府の門へせかけた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ご承知のように、わたくし共女子や子供たちの多くは、お触れによってずっと城中にあがり、矢竹つくりやお物具もののぐのお手入れを
城を守る者 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
清盛公は鎧を召され、侍どももすべて物具もののぐの用意をいたし、唯今より、法住寺殿へ押しかけるご決意のようでございます。
右衛門も普通の人間がつくぐらいの嘘はつくことができた。彼は乱軍の中で主人と別れ別れになった不幸をはじめとし、世を忍ぶために物具もののぐを自分で捨てた話などを、言葉巧みにした。
三浦右衛門の最後 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
こよいはことに夜廻りをきびしくし、すべて、物具もののぐを解かず、昼夜四交代の制をそのまま、かりそめにも防備の気をゆるませぬように励まれよ
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西八条の屋敷近くまでくると、甲冑かっちゅう物具もののぐをつけた兵士達が、満ち溢れて、どことなく緊迫した空気がただよっている。
物具もののぐの音を響かせるかと思うと、今度は三味線を鳴らすとあっては、こっちこそ見当が付きゃアしない。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
むろんでたらめであるが、ごらん候え、これに物具もののぐ一領、長刀ひとえだ、またあれに馬をも一ぴきつないで持ちて候。というくだりは、ふしぎに実感がこもって、みんなふと息をひそめた。
そのうえ、このたびはまた、御一族あまさぬお覚悟の戦立いくさだち。……良人だけが物具もののぐ捨ててよいものでございましょうか。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
物具もののぐの点検をしながら
「このところ転戦また転戦、物具もののぐを解くひまもなかろう。したがよく諸方で軍功をあげた。さすが父の名を恥かしめぬ者。おかみの御嘉賞もひとかたでないぞ」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曹休の郎党は、みな物具もののぐをつけて、戸外に整列し、火の手を見ながら、主人の命を待っていたところである。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「留守か。では爺、そちが下赤坂しもあかさかの城へひきつれて行け。そして物具もののぐ奉行の佐備さび正安へ渡すがよい。さきにも諸職の工匠たくみが入っていること。正安が心得おろう」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし正成は、さして焦慮しょうりょを抱いたふうでもない。——参内の二十一日の朝は、早くに物具もののぐを着け、さて、門を出るさいに、初めておいの楠木弥四郎にたずねていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じつあ楠木家からも、物具もののぐつくろいがたまっているから諸職の職人二、三十人よこせといわれていたんです。だがここのとこ、手不足なので、まだ十人ほどしかやっておりません。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とすぐ物具もののぐに身をかため内院へすすみ、二夫人に仔細しさいを語って、しばしの別れを告げた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まったくの烏合うごうの勢にひとしく、得物や物具もののぐも雑多だったが、ただ若い肉体は見事に揃っていた。そしてすさまじい争闘心がどの眼にもぎらついているのには、山木勢も胆を冷やした。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ただいま、ご舎弟も見にゆかれましたが、何やら、ご家中の血気者が物具もののぐ取って、おおぎやつへ仕返しに行くとか、いや先からせて来るとか、ただ事ならぬ騒ぎのようにござりまする」
正季は曲輪くるわの内へ入って、物具もののぐ奉行の佐備さび正安に会い、やがてまた、ただ一人で、外曲輪そとぐるわのガタガタする長い板廊下を踏んで、物具倉もののぐぐらと共にあるだだッ広い武者溜むしゃだまりのゆかを覗きに行った。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その老幼までをあげて身の物具もののぐもあわただしく、すべて辻の木戸や浜べ口にむらがり出て、尊氏の駒を迎え、「——先は知らず、ただ大殿が行く所へ」と、いのちを託していたのだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もちろん蟄居ちっきょの身のままであるから、ここにも、物具もののぐを着けた警固はつく。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
を、陣中の法規として、自身も日中は物具もののぐすら解かなかった。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「と、申すほどでもありませんが、天見ノ五郎の紹介で、昨年頃から、折々、物具もののぐの手入れなどさせている柳斎という実直者。住吉の店へも、両三度立ち寄ったこともあり、その辺は、心配な者ではございませぬ」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相当な身分らしい物具もののぐを着けた、姫路藩のしょう
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いちど、わが家の物具もののぐてもらおうか」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はや物具もののぐけていたのである。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)