爪弾つまび)” の例文
旧字:爪彈
と責められて、女王は困っているふうであったが、爪弾つまびきで琵琶をよく合うように少し鳴らした。大納言は口笛で上手じょうずな拍子をとるのだった。
源氏物語:45 紅梅 (新字新仮名) / 紫式部(著)
爪弾つまびきではありますが、手にとるように聞えてくるのは、ここもと、園八節の道行みちゆき桂川かつらがわ恋のしがらみか何かであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いびきごえや寝言など外部の音響おんきょうをも遮断しゃだんするに都合つごうが好かったもちろん爪弾つまびきでばちは使えなかった燈火のないくらな所で手さぐりで弾くのである。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、そう答えて、一人の芸者から、三味線を借りると、かすめた調子で、爪弾つまびきで、低く粋な加賀節を歌いだした。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
やがて経を読みおわり繩目の間から少しく指を挙げて一度爪弾つまびきをされたその時は、岸辺に群がる見送人は一時にワーッと泣き出したそうでございます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
奥の方では叔母の爪弾つまびきの音などが聞えて、静かな茶の間のランプの蔭に、母親が誰かの不断着を縫っていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「月あかり見ればおぼろの舟のうち、あだな二上にあが爪弾つまびきに忍びうたる首尾の松。」と心悪こころにくいばかり、目前の実景をそのまま中音の美声に謡い過ぎるものがあった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
お蘭はここで、かねがねお代官を喜ばしていた爪弾つまびきの一手をでも出してみたい心意気になる。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
新八はすぐに戻って来、借りてきた三味線を持って坐ると、爪弾つまびきで調子を合わせた。三味線は胴の裏皮がめくれていて、糸をはじいても反響はなく、破れたといでも叩くような音がした。
夏場のことで、表通りの店はまだ開いておりますが、蚊遣煙かやりが淡くこめて、どこからともなく爪弾つまびきの音も聴えてくる戌刻半いつつはん(九時)過ぎ、江戸の夜の情緒は、山の手ながら妙になまめきます。
爪弾つまびきの三味線のが流れ出て
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この時代に春琴は弾絃の技巧ぎこうのみならず作曲の方面にも思いをらし夜中ひそかにあれかこれかと爪弾つまびきで音を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
女師匠が、奥で爪弾つまびきをしていると、大きな男が、つるべ井戸から手桶をさげて風呂場へ汲みこんでいた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しめやかな爪弾つまびきの音などが旅客の哀愁をそそった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
幸子は元日のひる過ぎから三味線を持ち出して、爪弾つまびきで「万歳」のおさらいをして、三箇日の間ずっと続けたが、しまいには悦子も聞き覚えて、「緋紗綾緋縮緬ひさあやひぢりめん、………」
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
だから昼は爪弾つまびきの音が流れ、夕めくと、店の前を芸妓の木履ぽっくりの鈴が通り、金春の姐さんなどが、湯上がりの上ゲびんを涼やかに見せて行くなど、濃厚な脂粉の気も漂うのだが