煮染にし)” の例文
どっさり持ってめえりましたぞい。おなますも持って参りましたぞい。ほれ、これが金平きんぴら……煮染にしめもありますで……ひらべの煮付け……
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
幕の内には煮染にしめが添えてあるが、それがうまいということになっていて、芝居のみやげに買って帰る人も沢山たくさんあった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
田舎いなかの娘であらう。縞柄しまがらも分らない筒袖つつっぽ古浴衣ふるゆかたに、煮染にしめたやうな手拭てぬぐい頬被ほおかぶりして、水の中に立つたのは。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
吸物、平、なます煮染にしめ、天麩羅てんぷら等、精進下物の品々を料理し、身一個をふり廻して僕となり婢となり客ともなり主人ともなって働きたり、日暮るれば僧も来たり、父老、女房朋友らのかずも満ち
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
「醤油で煮染にしめたような物じゃ困るナ」
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
市川さんの屋敷では強飯こわめしをたいて、なにかの煮染にしめものを取添えて、手習子たちに食べさせました。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
其内そのうちこしはさんだ、煮染にしめたやうな、なへ/\の手拭てぬぐひいて克明こくめいきざんだひたひしはあせいて、親仁おやぢこれしといふ気組きぐみふたゝまへまはつたが、きうつて貧乏動びんぼうゆるぎもしないので
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その内腰にはさんだ、煮染にしめたような、なえなえの手拭てぬぐいを抜いて克明こくめいに刻んだ額のしわの汗をいて、親仁おやじはこれでよしという気組きぐみ、再び前へ廻ったが、もとによって貧乏動びんぼうゆるぎもしないので
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
約束の通りに強飯やお煮染にしめの御馳走が出た。酒も出た。
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
木綿袷もめんあわせ條柄しまがらも分かぬまでに着古したるを後褰しりからげにして、継々つぎつぎ股引ももひき泥塗どろまぶれ脚絆きゃはん煮染にしめたるばかりの風呂敷包ふろしきづつみを斜めに背負い、手馴てならしたる白櫧しらかしの杖と一蓋いっかい菅笠すげがさとをひざの辺りに引寄せつ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)