煤竹すすだけ)” の例文
するとたちまち出遇つたのは兄の英吉でございます。兄は煤竹すすだけのついた置きランプを一台さげた儘、急ぎ足に其処そこを歩いて居りました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ひとかどの茶人のこのみでもあるかのように、煤竹すすだけ炭籠すみとり火箸ひばしはつつましく寄せてあるし、描板のうえには茶布巾ちゃふきんがきちんとたたみつけてある。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お妾は抜衣紋ぬきえもんにした襟頸えりくびばかり驚くほど真白に塗りたて、浅黒い顔をば拭き込んだ煤竹すすだけのようにひからせ、銀杏返いちょうがえしの両鬢りょうびん毛筋棒けすじを挿込んだままで
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
夜は煤竹すすだけの台を着けた洋灯ランプの両側に、長い影をえがいて坐っていた。話が途切れた時はひそりとして、柱時計の振子の音だけが聞える事もまれではなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何処どこ珈琲店カフェーにもある焦茶こげちゃの薄絹を張った、細い煤竹すすだけの骨の、とばり対立ついたてとを折衷したものが、外の出入りの目かくしになって、四鉢ばかりの檜葉ひばまきの鉢植えが
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「笹や、笹々笹や笹、笹を買わんせ煤竹すすだけを——」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見れば、煤竹すすだけ一節ひとふしを切った花入れに、一輪の白菊をけてささげている。静かに、秀吉の横へ坐って、菊の姿のくずれぬ程に、そっと床脇とこわきにおいた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道也どうや先生長い顔を長くして煤竹すすだけで囲った丸火桶まるひおけようしている。外を木枯こがらしが吹いて行く。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
右手めての刀で、炉の上に懸かっている自在鉤じざいかぎ煤竹すすだけを斬り落そうとしているのである。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この懸物かけものは方一尺ほどの絹地で、時代のために煤竹すすだけのような色をしている。暗い座敷へ懸けると、暗澹あんたんとして何がいてあるか分らない。老人はこれを王若水おうじゃくすいの画いたあおいだと称している。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)