火縄ひなわ)” の例文
旧字:火繩
みな、谷川で火縄ひなわらしてしまったので、鉄砲てっぽうをすてて大刀をぬく。やりを持った者は石突いしづきをついてポンポンと石から石へ飛んであるく。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
待て/\、お行者ぎょうじゃ。灸と言へば、煙草たばこ一吹ひとふかし吹したい。ちょうど、あの岨道そばみちほたるほどのものが見える。猟師が出たな。火縄ひなわらしい。借りるぞよ。来い。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
此奴こいつ容易ならぬ曲者なりと、平林は手早くも玄関の長押なげしに懸けてありました鉄砲へ火縄ひなわはさみ、文治へ筒口を向けましたから、文治は取って押えた両人を玉除たまよけかざ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「あの、まだ奥に文四郎流の火縄ひなわがあります、高江殿にはあれを持っておいでなさるように」
いまや帆を焼き尽くし、火縄ひなわを失って、軍船は速力さえも減じつつあるのではないか。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
袖の下に隠していた火縄ひなわを振り照らすと、その小さい火に対して相手は余りに大き過ぎるらしく、ただ真っ黒な物が眼のさきに突っ立っているだけで、その正体はよく判らなかった。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
支那から伝来して来た竹紙ちくしという、紙を撚合よりあわせて作った火縄ひなわのようなものがあったが、これに点火されておっても、一見消えた如くで、一吹きすると火を現わすのでなかなか経済的で
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
あれを刈りに行くものは、腰に火縄ひなわげ、それを蚊遣かやりの代わりとし、襲い来る無数の藪蚊やぶかと戦いながら、高いがけの上にえているのを下から刈り取って来るという。あれは熊笹くまざさというやつか。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かれの狡獪こうかいなそらおどしは効果こうかがなかった。火縄ひなわはいまの格闘かくとうでふみけされてしまったので、筒口つつぐちをむけてもにわかの役には立たないのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は蝋燭ろうそくけて外をうかがった。外は真暗まっくらで、雨は間断しきりなしにしとしとと降っていた。ぎいぎいという不思議の声は遠い草叢くさむらの奥にあるらしく思われたので、私は蝋燭を火縄ひなわに替えた。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
七十ばかりになるおじいさんが火縄ひなわをこしらえながら店番をしていると
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ふもとでもらった、蛍火ほたるびほどの火縄ひなわをゆいつのたよりにふって、うわばみの歯のような、岩壁をつたい、百足腹むかでばら、鬼すべりなどという嶮路けんろをよじ登ってくる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「茶代をここへおくぞ。——それから、途中で暗くなった時の用意に、火縄ひなわを二、三本貰って行くからの」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのために鉄砲隊の足軽は、敵味方とも火縄ひなわの火が消えて難儀しているということだった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、その駕と提灯に添ってゆく中の一人が、足をとめて、こッちをふりかえったかと思うと、チリチリと火縄ひなわの粉を赤く散らして、ドーン! と短銃の関金せきがねを引き放した。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火縄ひなわを口にくわえ、一人は二度目の弾込たまごめをしているらしい。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「溺れるなよ。火縄ひなわを濡らすなよ」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火縄ひなわを濡らすな」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)