漬菜つけな)” の例文
漬菜つけなを洗つたあとに、朝霜が白く置いてゐるのは、ちよつとインプレツシイブな感じを私に起させる。葉はもうすつかり落ちて了つた。
心理の縦断 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
甘藷を手掘りすると、早生は赤児あかごの腕程になって居る。大根、漬菜つけなを蒔かねばならぬ。蕎麦、秋馬鈴薯もそろ/\蒔かねばならぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それがそのあたりの田圃だった時分のさまを可懐なつかしくおもい出させた。——それにはその道の上に嵩高かさだかにつまれた漬菜つけなのいろ。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
この使つかいの小僧ですが、二日ばかりというもの、かたまったものは、漬菜つけなの切れはし、黒豆一粒入っていません。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そんなこといはねえでいくつでもつてけよ、なほぎはけねえぢやえかねえもんだから」勘次かんじ漬菜つけなはなして檐下のきしたた。あしでたやうにあかくなつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かえって少しの光や音や動きやは、その静かさの強みを一層強く思わせる。湿りを含んだランプの光の下に浮藻うきも的生活のわれわれは食事にかかる。佃煮つくだに煮豆にまめ漬菜つけなという常式じょうしきである。
水籠 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
まるで大根か漬菜つけなでも仕入れて歩いているような始末で、まったく大笑いです。
半七捕物帳:64 廻り灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
信濃路に帰り来りてうれしけれ黄に透りたる漬菜つけなのいろは (アララギ)
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
裏は御母おっかさんや、御祖母おばあさんが張物はりものをする所である。よしが洗濯をする所である。暮になると向鉢巻むこうはちまきの男がうすかついで来て、もちく所である。それから漬菜つけなに塩を振ってたるへ詰込む所である。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手伝ひの来しより漬菜つけなあわたゞし
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
霜にめげぬは、青々あおあおとした大根の葉と、霜で甘くなる漬菜つけなたぐいと、それから緑のしまを土に織り出して最早ぼつ/\生えて来た大麦小麦ばかりである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それから日に/\秋風あきかぜをこゝに見せて、其薄紫の穂が白く、青々とした其葉が黄ばみ、更に白らむ頃は、漬菜つけなを洗う七ちゃんが舌鼓したつづみうつ程、小川の水は浅くなる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)