深碧しんぺき)” の例文
耳を澄ますと、四山の樹々には、さまざまな小禽ことりむれ万華まんげの春に歌っている。空は深碧しんぺきぬぐわれて、虹色の陽がとろけそうにかがやいていた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船首の突端へ行って海を見おろしていると深碧しんぺきの水の中に桃紅色の海月くらげが群れになって浮遊している。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
白皚々はくがいがいたる御嶽山は、暮れ行く夕陽に照らされて、薄紅の瑪瑙めのうのように深碧しんぺきの空にそびえている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
物凄いばかりの大谿谷けいこくが横わり、両岸は空を打つかと見える絶壁が、眉を圧して打続き、その間に微動もしない深碧しんぺきの水が、約半町程の幅で、眼も遙かにたたえられているのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
先刻せんこく見送みおくられた吾等われらいま彼等かれらこのふねよりおくいださんと、わたくし右手めて少年せうねんみちびき、流石さすが悄然せうぜんたる春枝夫人はるえふじんたすけて甲板かんぱんると、今宵こよひ陰暦いんれき十三深碧しんぺきそらには一ぺんくももなく
「ふしぎな? ……」と、彼は、つぶらな眼をじっとこらして、見ても見ても見飽かぬように、深碧しんぺきな、そして深く澄んだ、空に見入っていることがあった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)