洋琴ピアノ)” の例文
貴君あなたは文化的な生活はお嫌ひのやうに承はつてゐましたから、実は洋琴ピアノの方も余りお好きではないか知らと思つてゐましたので……」
なるほど洋琴ピアノもやみ、犬の声もやみ、鶏の声、鸚鵡の声も案のごとく聞えなくなったが下層にいるときは考だに及ばなかった寺の鐘
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
考えても——あがばなには萌黄と赤と上草履をずらりと揃えて、廊下の奥の大広間には洋琴ピアノを備えつけた館と思え——彼奴きゃつが風体。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでも長椅子ソーファ背後うしろ、装飾戸棚、暖炉横の洋琴ピアノの陰、窓のカーテンの脹み、箪笥の扉、ありとあらゆるところはことごとく調べてみた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
円い磨硝子すりがらすの笠をかけた朦朧もうろうたるランプの火影に、十九歳のロザリンが洋琴ピアノを弾きながら低唱したあのロマンスのなつかしさ。
海洋の旅 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
音楽者の癖で、曾根が手の指は無心に洋琴ピアノの鍵盤に触れるように動いた。これはそうふるいことでも無かった。急に、三吉はこの人と親しみを増すように成った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
だいたい鐘には、洋琴ピアノみたいに振動を止める装置がないので、これほど残響のいちじるしいものはない。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ああ、まだある、それから洋琴ピアノのほかに
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
「いや、どうして/\、洋琴ピアノは大好きでさ。」小説家はこれまでいろんな荒仕事をして来たらしい、巌丈がんぢやうな両肩をゆすぶりながら笑つた。
こんな事なら琴の代りに洋琴ピアノでも習って置けば善かった。英語も昔のままで、今はおおかた忘れている。阿父とうさまは女にそんなものは必要がないとおっしゃる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
居間からは洋琴ピアノの音が洩れたりレコードが奏でられたり、そして昼は庭の常春藤きづたの陰に卓子テーブルしつらえさせて、そこで食事を取っていたようであったが、かれこれちょうど二
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
その時岸本はある舞台の上で見た近代劇の年老いた主人公をふと胸に浮べた。その主人公のところ洋琴ピアノいて聞かせるだけの役目で雇われて通って来る若い娘を胸に浮べた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし、その間に法水の推考が成長していって、ついに洋琴ピアノ線のように張りきってしまった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「埋葬曲」は洋琴ピアノ作曲家として何人なんびとも企て及ばざる Chopin が藝術の極致を示したもので、波蘭土革命ポーランドかくめいの騷亂に殉死した一青年の埋葬に戀する許嫁いひなづけ少女をとめが會葬の人々の立去つたあと
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
「その折親父は卓子テーブルの上に乗つて逃げましたが、私は洋琴ピアノにつかまつて、やつ生命拾いのちひろひをしたやうな始末なんで。」
洋琴ピアノを弾いている窓の下なぞで投げ独楽デアボロをしたり、紫雲英クローバーを摘んだりして遊んでいるところを見ると、母は洋琴の手をやめて窓越しに、微笑みながら私たちの姿を眺めていたり
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
或時サローンに這入はいったら派手はで衣裳いしょうを着た若い女が向うむきになって、洋琴ピアノいていた。そのそばに背の高い立派な男が立って、唱歌をうたっている。その口が大変大きく見えた。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かつて彼は自分と節子との時代の隔たりを、ある近代劇中の老主人公と、洋琴ピアノいて聞かせるだけの役目にあの主人公のもとへ通って来る若い娘との隔たりにたとえて見たことがある。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それを洋琴ピアノで喩えて云うと、最初〓のキイを音の出ないように軽く押さえて、それから〓の鍵を強く打ち、その音が止んだ頃に〓のキイを押さえた指を離すと、それからは妙に声音的な音色で
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ある時同じ露西亜生れのヤアシヤ・ハイフエツツといふ名高い少年提琴手ヴアイオリニストの独奏会が紐育ニユーヨークのある楽堂ホオルで催されたので、友達のレオポルド・ゴドヰスキといふ洋琴ピアノきと一緒に聴きに往つた事があつた。
洋琴ピアノの声、犬の声、鶏の声、鸚鵡おうむの声
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)