沈香じんこう)” の例文
沈香じんこう麝香じゃこう人参にんじんくま金箔きんぱくなどの仕入、遠国から来る薬の注文、小包の発送、その他達雄が監督すべきことは数々あった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それのみか然様そういう恐ろしいところではあるが、しかし沈香じんこうを産するの地に流された因縁で、天香伝一篇を著わして、めぐみを後人におくった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「最初は結構な煙草かと思いました、——恥かしながら、伽羅や沈香じんこうというものを、嗅いだこともない私で、あれが伽羅と判るまでに、とんだ苦労をしましたよ」
天狗星てんぐせいの流れます年の春には花頂若王子にゃくおうじのお花御覧、この時の御前相伴衆ごぜんしょうばんしゅうはしは黄金をもってべ、御供衆おともしゅうのは沈香じんこうを削って同じく黄金の鍔口つばぐちをかけたものと申します。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
地は縮緬ちりめんで、模様は松竹梅だか何だか知らねえが、ずいぶん見事なものだ、それでこの通りいい香りがするわい、伽羅きゃらとか沈香じんこうとかいうやつの香りなんだろう、これを一番
北向道陳きたむきのどうちんなどの風とを引き合わされて数寄すきらされ、又山里にも沈香じんこうの長木を以て、四畳半と二畳敷の数寄屋を建てられ、早くもその道の面々を召してお茶を下されたり
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
精巧な用箪笥ようだんすのはめ込まれた一けんの壁に続いた器用な三尺床に、白菊をさした唐津焼からつやきの花活はないけがあるのも、かすかにたきこめられた沈香じんこうのにおいも、目のつんだ杉柾すぎまさの天井板も
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「あ、こわい、こわい。沈香じんこうもたかず、もこかずにいるんだな」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「まあ、いい匂い。ねえ秀さん、これきっと沈香じんこうとか栴檀せんだんとかっていうものよ。あの方丈さまは、お生れは都で大きな糸屋の若旦那だったんですとさ。だから気がきいてるわね、こんなおみやげ一つにしてもさ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「香木のある穴だ。伽羅きゃらだか、沈香じんこうだか知らないが、とにかく、名香をしまってある穴だ。来い、八」
天狗星てんぐせいの流れます年の春には花頂若王子にゃくおうじのお花御覧、この時の御前相伴衆ごぜんしょうばんしゅうはしは黄金をもつてべ、御供衆おともしゅうのは沈香じんこうを削つて同じく黄金の鍔口つばぐちをかけたものと申します。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
床の間の香炉からは、始終紫色の香の煙が真っ直ぐに静かに立ち昇って、明るい暖かい室内をきしめて居た。私は時々菊屋橋ぎわみせへ行って白檀びゃくだん沈香じんこうを買って来てはそれをべた。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
金箔きんぱく銀箔瑠璃るり真珠水精すいしょう以上合わせて五宝、丁子ちょうじ沈香じんこう白膠はくきょう薫陸くんろく白檀びゃくだん以上合わせて五香、そのほか五薬五穀まで備えて大土祖神おおつちみおやのかみ埴山彦神はにやまひこのかみ埴山媛神はにやまひめのかみあらゆる鎮護の神々を祭る地鎮の式もすみ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
盗賊は入りませんかと——いや待て待て——大名屋敷に伽羅きゃら沈香じんこうがあるのは不思議はないが、大名が町家の子供を五人もさらって行く道理はない——それにお新の弟の信太郎は
「これだけありゃ、人参にんじんでも沈香じんこうでも買えるぜ親分」