気振けぶ)” の例文
旧字:氣振
が、おくびにもそんな気振けぶりは見せなかった。彼等に知られるのが厭で、装うた無頓着さが、彼の態度を忽ち、ぎごちなくした。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
だが、そんなことは気振けぶりにも見せなんだ。己は人並の恋なぞ出来る身体ではなかったのだ。この世のことは何もかもあきらめ果てていた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
誰にたしかめてみると云ふ人もないので母の所に来てみたのだがそれらしい気振けぶりもない母にむかつて、其の事を言ひ出すわけには行かなかつた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
何かしら、人間ぎらいな、人を避け、一人で秘密を味わおうという気振けぶりが深谷にあることは、安岡も感じていた。
死屍を食う男 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
幾たびとなく、礼をくり返していましたけれど、蚊帳はソヨともうごきませぬし、寝返りを打つ気振けぶりもしません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
したがって、近く彼女が示そうとしているであろう彼女自身の実証に対しても、私たちは、それを待ちあぐんでいることなどは気振けぶりにも見せなかった。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
が、名を知られ、売れッこになってからは、気振けぶりにも出さず、事の一端に触れるのをさえ避けるようになった。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このことと俊雄ようやく夢めて父へび入り元のわが家へ立ち帰れば喜びこそすれ気振けぶりにもうらまぬ母の慈愛厚く門際もんぎわに寝ていたまぐれ犬までが尾を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
誰も、佐伯でさへも舎監の眼をおもんばかつて忌憚きたん気振けぶりを見せ、慰めの言葉一つかけてくれないのが口惜くやしかつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
あの人の知ったことですか? おまけに僕は、そんな気振けぶりも見せないのにね。僕はそれほど俗悪じゃありませんよ。われわれは恋愛を超越してるんです!
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
弥々いよいよ戦争が始まると云うのに、この城の中に来て悠々と弁当などくって居られるものか、始まろうと云う気振けぶりが見えれば何処どこかへぐに逃出して行きます。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
千種十次郎は、それにもかかわらず、此まま帰ろうかと思いましたが、柳糸子は早くもその気振けぶりを察して
踊る美人像 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
また、故郷のジャングルをしたう郷愁といったものも、ドドには気振けぶりにさえもみえないのだ。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ものの出そうな気振けぶりもない。これでも物の怪は出ますかな?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ただ、仁三の方では、しきりに、伝吉と別れよう、こうとする、気振けぶりが見える。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
胸に五寸釘の金弥であったが、そんな気振けぶりはチラリとも見せず
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お粂のいらいらするのは、ここまで行ッていながら、まだともすると、自分の手から逃げそうな男の気振けぶりです。自分の情炎に溶けきれないものが男のどこかに残っている不満です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それに、繩梯子なわばしごを巻き上げたりなどしやがって、どうも気振けぶりがに落ちねえ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
桂は、何か、露八に気をおくらしい気振けぶりで
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お綱は片えくぼに万吉の気振けぶりを見ながら
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)