機鋒きほう)” の例文
「僕の有望な画才が頓挫とんざして一向いっこう振わなくなったのも全くあの時からだ。君に機鋒きほうを折られたのだね。僕は君にうらみがある」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
禅門の習いで、法問答を行うのが例であり、尼の機鋒きほうの鋭さを知っているので、日頃、尼に振られていた業腹ごうはらな連中も手ぐすね引いていたのである。
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
野枝さんも児供が産れるたびに、児供がおおきくなるごとに青鞜せいとう時代の鋭どい機鋒きほうが段々とまるくされたろうと思う。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
お松が現われると、すっかり谷蔵の機鋒きほうにぶってしまうのが不思議であります。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
虹汀、修禅の機鋒きほうを以て、身を転じてくうを斬らせ、咄嵯とっさに大喝一下するに、の武士白刃と共に空を泳いで走る事数歩、懸崖の突端より踏みはずし、月光漫々たる海中に陥つて、水烟すいえんと共に消え失せぬ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「イヤ、最前の雑言ぞうごんは、あれや禅坊主の奥の手でな、機鋒きほうるというやつだが、あの尼はビクともせん」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこでこの煮つめたところ、煎じつめたところが沙翁の詩的なところで、読者に電光の機鋒きほうをちらっと見せるところかと思います。これは時間の上の話であります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分がきめてもいいから楽ができなかった時にすぐ機鋒きほうを転じて過去の妄想もうそうを忘却し得ればいいが
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、機鋒きほうわして、柔軟にあしらいおき、十重二十重とえはたえのうちに撃つは何の造作でもない。だが、正成はころすな。なるべくは生けどれ。その令を、直義へつたえおくのだ。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
禅の機鋒きほう峻峭しゅんしょうなもので、いわゆる石火せっかとなるとこわいくらい早く物に応ずる事が出来る。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
爺さんは少しく不本意の気味で「いや、御泣きか、なに? 爺さんがこわい? いや、これはこれは」と感嘆した。仕方がないものだからたちまち機鋒きほうを転じて、小供の親に向った。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうしてその強い調子が、どこまでも冷笑的に構えようとする彼の機鋒きほうくじいた。お延にはなおさらであった。彼女は驚ろいてお秀を見た。その顔は先刻と同じように火熱ほてっていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いやなかなか機鋒きほうするどい女で——わしの所へ修業に来ていた泰安たいあんと云う若僧にゃくそうも、あの女のために、ふとした事から大事だいじ窮明きゅうめいせんならん因縁いんねん逢着ほうちゃくして——今によい智識ちしきになるようじゃ
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
単純なこの一言いちごんは急に津田の機鋒きほうくじいた。同時に、彼の語勢を飛躍させた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)