格子窓こうしまど)” の例文
その家は、オランダから持ってきた黄色い小さな煉瓦れんがで建てられ、格子窓こうしまどがあって、正面は破風はふ造りで、棟には風見がのっていた。
中六番町なかろくばんちょうの家を引き払おうという二三日ぐらい前の夜半に盗賊がはいって、玄関わきの書生部屋しょせいべや格子窓こうしまどを切り破って侵入した。
蒸発皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
襤褸ぼろ商人の家の二階の格子窓こうしまどの前の屋根の上に反古籠ほごかごが置いてあって、それが格子窓にくくりつけてある。何のためか分らぬ。
車上の春光 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
机の前には格子窓こうしまどがある、——その窓から外を見ると、向うの玩具問屋おもちゃどんやの前に、半天着はんてんぎの男が自転車のタイアへ、ポンプの空気を押しこんでいた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もし他の者がそういう地位に立ったら、テナルディエにもらった綱とこれからはいるべき第一の地牢ちろう格子窓こうしまどとに、おそらく漠然ばくぜんと思いをせたであろう。
聞いて格子窓こうしまどの外からおかしくてたまらないといったように、いとも朗らかにうち笑ったのは名人右門です。
宗吾郎が、いよいよ直訴じきそを決意して、雪の日に旅立つ。わが家の格子窓こうしまどから、子供らが顔を出して、別れを惜しむ。ととさまえのう、と口々に泣いて父を呼ぶ。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
博士は、帆村探偵と正太少年とを放りこんである土牢つちろうの前に、そっと近づいた。そして小さい格子窓こうしまどのところへよった。かすかな豆電球がともっている土牢であった。
人造人間エフ氏 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その議事堂の格子窓こうしまどからは、そのむかし皇帝こうてい戴冠式たいかんしきのときにあぶり肉にされて、人々のご馳走ちそうにされた、角のついたままの牡牛おうし頭蓋骨ずがいこつが、いまもなおきでているのですが、しかし
こう云って蔀君は先きに立って、「御免なさい、御免なさい」を繰り返しながら、平手で人を分けるようにして、入口と反対の側の、格子窓こうしまどのある方へ行く。僕は黙って跡に附いて行った。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
旧共和国の牢獄ろうごくの一部をなしていて、侯爵夫人の部屋の格子窓こうしまどに面しているとすでに述べた、あの暗い壁龕の内側から、外套がいとうにくるまった一人の姿が燈光のあたっているところまで歩み出て
門の並びに黒い暖簾のれんをかけた、小さな格子窓こうしまどの平屋はおれが団子を食って、しくじった所だ。丸提灯まるぢょうちん汁粉しるこ、お雑煮ぞうにとかいたのがぶらさがって、提灯の火が、軒端のきばに近い一本の柳の幹を照らしている。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つらで啖呵たんかをきるんじゃねえ! この十手が啖呵をおきりあそばすんだ。あれを見ろッ、あそこの格子窓こうしまどの向こうからのぞいていらっしゃるだんなの顔をみろッ。
「一階にあるへやで、庭の方に格子窓こうしまどがありますが、それは外から板戸でしめてあります。戸口が二つありまして、一つは修道院に、一つは会堂に続いています。」
私はお勝手で夕食の後仕末あとしまつをしながら、すっとその気配を背中に感じ、お皿を取落すほどさびしく、思わず溜息ためいきをついて、すこし伸びあがってお勝手の格子窓こうしまどから外を見ますと
おさん (新字新仮名) / 太宰治(著)
わしは、雨戸を引かれた、表の格子窓こうしまどに近づいて、家の内部の様子をうかがった。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)