朧々おぼろおぼろ)” の例文
朧々おぼろおぼろも過ぎず、廓は八重桜のさかりというのに、女が先へ身を隠した。……櫛巻くしまきつましろく土手の暗がりを忍んで出たろう。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おもて八句を庵の柱に懸置き、弥生やよひも末の七日、明ぼのゝ空朧々おぼろおぼろとして、月は有明にて光をさまれるものから、不二ふじの峰かすかに見えて、上野谷中やなかの花のこずえまたいつかはと心細し。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
川面かわもを這う白いものに、もう相互の舟影は、朧々おぼろおぼろになっていた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朧々おぼろおぼろの物影のやをら浸み入り広ごるに
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
伏して思ふ朧々おぼろおぼろの昔かな
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
……だもの、記憶おぼえも何も朧々おぼろおぼろとした中に、その悲しいうつくしい人の姿に薄明りがさして見える。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朧々おぼろおぼろ父母ちちはは
若菜集 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それは冷たかったけれども、小春凪こはるなぎの日の余残なごりに、薄月さえ朧々おぼろおぼろと底の暖いと思ったが、道頓堀で小休みして、やがて太左衛門橋を練込む頃から、真暗まっくらになったのである。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
冴えた音を入れると、鶯のほうと立つ、膳の上の陽炎かげろうに、電気の光がやわらいで、朧々おぼろおぼろと春に返る。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
というもので、むしろを並べて、笠をかぶって坐った、山茱萸、山葡萄のおんなどもが、くだんのぼやけさ加減に何となく誘われて、この姿も、またどうやら太陽の色に朧々おぼろおぼろとして見える。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
放して退すさると、別に塀際へいぎわに、犇々ひしひしと材木のすじが立って並ぶ中に、朧々おぼろおぼろとものこそあれ、学士は自分の影だろうと思ったが、月は無し、つ我が足はつちに釘づけになってるのにもかかわらず、影法師かげぼうし
木精(三尺角拾遺) (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朧々おぼろおぼろの大路小路。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)