旁〻かたがた)” の例文
お見舞旁〻かたがたお伺いしたのですが、もし奥様にお眼に懸れたらちょっとでもお会いしたいと云い入れたので、兎に角病室へ通って貰った。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
旁〻かたがた、彼女からすがられたある問題のかたをつけるためだったが、ほかの客がいては、ちょっと、話のぐあいが悪いのである。
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
随分さそうな人でもあり、旁〻かたがた私もその人のためには充分利益になる事をしてやったものですから
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
今日こんちは、葬儀社でござい」等と言えば叩きのめされる危険がある。そこで土屋君も露骨には答え兼ねて旁〻かたがた多少のはくをつけるために、日頃取引関係のある陸軍を担ぎ出したのだ。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
今回受けました拙者への主命、重大でもあれば困難でもあり、尚また一方から云う時は、奇怪至極のものでもあり、さらに想像を巡らせば、手強てごわい競争相手もあって、旁〻かたがた成功は容易な事でござらぬ。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ちょうど陽気もええよって、見送り旁〻かたがた久振に東京見て来ますわ。今年はお花見に外れたさかい、その埋め合せさして貰わんと、………」
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ここにその全文を併載しようかとも考えたが、何分にも、長文すぎるし、旁〻かたがた、どうしても、親切な註釈を伴わないでは、難解なふしもある。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旁〻かたがた、どうかと思っていた質子を、かく早速伴って来た誠意に対しても、官兵衛の二心なきことを再認識して、大いによみしている風もうかがわれる。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幸子は三日目の夕方、会場の取り片附けを手伝い旁〻かたがた雪子や悦子たちを連れて来たが、残務を終えておもてへ出ると
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
旁〻かたがた、諸州への外聞もある。——漢中の命令を耳にも入れず、かえっていよいよ急にここを攻めているものなのです
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旁〻かたがた先にお春を附けて帰すに越したことはないと思ったのであるが、困ったことには、櫛田くしだ医師から紹介状を貰って来た東大の杉浦博士が目下旅行中で
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
累卵るいらんの危機を招くは必然でしょう。——それに張松は魏に使いしながら、帰途は荊州をまわって来たという取沙汰もある。旁〻かたがた、ご賢慮をめぐらし給え
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
子供というものがあればこそたいせつな人でござりますが子供が死んでしまいましたらちかごろよくない評判もあるしまだうばざくらというにさえ若すぎるとしだし旁〻かたがたこれは
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
旁〻かたがた、一度は訪れようと考えていた矢先、ちょうどよい、ここへは苦情の来ぬように俺が禁厭まじないをして来てやる
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
向うへ着くともうその人が待っていると云うようなことがあるかも知れない、旁〻かたがた支度をして行った方がよいであろうと云うことになって、これはひとしお着附に念が入っていた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わが家とは血縁もあり、旁〻かたがた曹操すら一目も二目もおく者と聞けばこそ、予も頼もしく思うて彼の力を借るのじゃ。汝らこそ二度と要らざる舌をうごかすまい
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ、移転の手伝いや見舞い旁〻かたがた土曜日の晩から上京した音やんのせがれの庄吉が、月曜の朝帰って来、蘆屋へも東京の様子を話すように云い付けられたからと、その日のうちに訪ねて来た。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「やわか、義弟おとうとの関羽を、見殺しになすべきぞ、旁〻かたがた憎むべき劉封、孟達のともがら。断じて、罪せねばならぬ」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、二十五日に結納を終え、ロスアンジェルスにいる井谷のもとへ国嶋からその旨を打電したのであったが、雪子は暇乞いとまご旁〻かたがた暫く本家に留まることになって、二十七日の朝幸子だけ帰って来た。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
旁〻かたがた、こういう神品を私人の塵蔵じんぞうにまかせておきましては、折角の名作もその光を放たず、また何時なんどき不慮の事がないとも限りませぬ故、手に戻ったのを幸いに
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主君への御奉公に事欠くようなおそれもあるやにお考えなされ、旁〻かたがたまた、御自身は百姓ばばじゃ、今のくらしでも身にすぎたなどと、いつも口ぐせに仰せられている。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは駕かきの仲間は誰も知らないらしく、多分死んでしまったのだろうという者もいるし、いやその息子の生死も旁〻かたがたさがしているのだとったふうに説いている者もある。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……いささか烏滸おこなりとも存じましたが、将来、わが小寺家と荒木家とは、同じ麾下と、同じ目的のために、一心提携ていけいいたして参らねばならないことでもあり、旁〻かたがた、帰国の途中
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
各〻も、昼夜、戦のほかに他念なく、疲れもしつらん。旁〻かたがたきょうは祝うべく楽しむべき日だ。粮米ろうまいすらに事欠く中、何もないが一さんみ交わそうぞ。さあ、くつろいで杯を挙げよ
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山木判官の後見、堤権守信遠つつみごんのかみのぶとおは、山木家の北山に居を構えておるが、その信遠は、勇猛な聞えのある男ではあるし、旁〻かたがた、この小勢では、一方攻めしているまに包まれるおそれもある。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
心のうちでは、この春と共に、もっと早く病間を出たいと念じていたのですが、実は、貴公の安否が分るまでと、心待ちに、旁〻かたがた、身の養生をもきょうまで長引かせていたところです。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「大内不伝の素行については、平常、おもしろからぬ風評もあり、旁〻かたがた、仰せのような事実があれば、御遠慮なく、お取糺とりただしのこと、何ら、さしつかえなしとのおことばにござります」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
京へ参る道中で大勢の仲間の者が、ちと面倒ないさかい事を起しましてな、うるさくてかないません。半月ほど、ここに避けて、旁〻かたがた、ちと養生ようじょうしていたいと存じますが、どこか空いている一間を
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それも思わぬではないが、何せい、黒田父子は、小寺政職まさもとの臣。小寺家そのものの内部にすら、なお彼に服さず、ひそかに毛利家へ心を寄せている者もあると聞き及ぶ。旁〻かたがた、心はゆるし難い。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二名はかならず網の目をぬけて、仔細を謙信の許へ復命するものと思われる。——のみならず、越後の方にも甲州方の諜者は何十人となく捕えられておるし……旁〻かたがた斬ったところで、益のないことだ。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旁〻かたがた、京都へ入ってから、義仲の二の舞をやられても困る。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)