文筥ふばこ)” の例文
文筥ふばこを手に持ってノソノソ帰って行く中間のうしろ姿へいまいましそうに舌打ちをひとつくれて、二階の自分の部屋へもどって来る。
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
女は蒔絵まきえ文筥ふばこを持っていた。その文筥はかなり古びたもので、結んだしでひもも太く、その紫の色もすっかり褪色たいしょくしていた。
葦は見ていた (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、往来の者も、後振り向いて、お通の代りに声を揚げ合っていたが、その時、彼方の辻から、胸に文筥ふばこを掛けた何家どこかの下郎が、牛の前に歩いて来た。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なまめかしい朱房しゅぶさ文筥ふばことともに、江戸桃源の春風に乗って舞い込みました。
むらさきの文筥ふばこひものかた/\をわがのとかへて結びやらばいかに
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
○嘉義市中にて亜杉製の文筥ふばこを見る
台湾の民芸について (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
と、鄭重のうちにもどやどやして、やがて蒔絵まきえ文筥ふばこの房長なのを恐々こわごわ持った近所の内儀が
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さし出したのは、すばらしくも贅沢ぜいたくきわまる文筥ふばこなのです。
「……そうなのよ、なにもかも昔どおりなの、このお部屋にある箪笥たんすもお鏡台も、お机もお文筥ふばこもお火桶ひおけも、昔のままの物が昔のままの場所にきちんと据えられて一寸も動かされない、そういう感じなんです」
日本婦道記:風鈴 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
綱条つなえだ世子せいしで——光圀には孫にあたる——吉孚よしのぶの夫人八重姫やえひめは、京都の鷹司家たかつかさけからいていた。大奥には由来、京出身の女性が多く、文筥ふばこのやりとりや往来も自然に繁かった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文筥ふばこふたには、室町蒔絵まきえの松竹梅の図が盛ってあった。信長は、頭を当てがいながら
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「泰平をよろこぶ民をあわれみ遊ばせ。——いくさは私憤をもってするものではございませぬ。……ご賢慮を」と、袖にすがって諫言かんげんしているところへ、小侍が、一個の文筥ふばこを捧げてきて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わしが鎌倉へ曳かれた後には、さっそく六波羅兵がこれへ臨んで、家探しをなし、往来の書状、文筥ふばこなど、あらため荒すにちがいない。——されば、家職の助光に預けおくも安心はできぬ。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると本町ほんちょうの辻で、はたと、目のさめるような美しい娘に出会った。白粉気おしろいけはないが、りんとして、しかもなよやかで、文筥ふばこを胸に抱いている姿のどこかに初々ういういしさもあって、気品のある武家娘だった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若い禅坊主は、自分の胸にかけている文筥ふばこを眼で示し
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勅の文筥ふばこは、三方にのせ、高時の前におかれてある。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、くれないひもで、胸に懸けていた文筥ふばこをとりはず
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、文筥ふばこを前に、灯影から遠く坐った。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、文筥ふばこうやうやしく出して
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)