擂木すりこぎ)” の例文
キノヲのヲは男の意で、臼を女と見立てての至って粗野なる異名であった。是と同じ思想は、今では擂鉢すりばち擂木すりこぎとが承け継いでいる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
台所へ行って擂木すりこぎで出来るだけその凹みを直し、妻に見つかって詰問されるのを避ける準備をして置かねばならなかった。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
文明は人の神経を髪剃かみそりけずって、人の精神を擂木すりこぎと鈍くする。刺激に麻痺まひして、しかも刺激にかわくものはすうを尽くして新らしき博覧会に集まる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ちょうど素麺そうめん位な鉄線を長さ一尺五寸位ずつ七本にってあの図を側へ置きながら小さな擂木すりこぎの頭で互い違いに鉄線の中ほどをまるく曲げて手元の方を
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
……この角樽をさげて汗だくだく、足を擂木すりこぎのようにしてようやく捜しあてたのに、いねえと言えはないでしょう
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
といって天秤てんびんを肩へ当るも家名のけがれ外聞が見ッともくないというので、足を擂木すりこぎ駈廻かけまわッてからくして静岡藩の史生に住込み、ヤレうれしやと言ッたところが腰弁当の境界きょうがい
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ヤマノイモの長い擂木すりこぎ様の直根が地中深く直下して伸び、それが地獄へ突き抜けたとしたら
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
その木脚のような二本の擂木すりこぎが、壁に背を凭せ全身を支えて突っ立っているのだった。
夢殿殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
一日婦女どもが食物をり調える処へ上帝来り立ち留まってるを五月蠅うるさがり、あっちへ行けといえど去らず、婦女ども怒って擂木すりこぎで上帝を打ったから、上帝倉皇天に登りまたと地上へくだらず
それに第一元のような杵と臼とが、もう家ごとには備わっておらぬようになって、ところによっては擂木すりこぎすなわち摺小杵すりこぎねをもって、米を砕いてシトギを作ろうとしている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この間卒業して以来足を擂木すりこぎのようにして世の中への出口を探して歩いている敬太郎に会うたびに、彼らはどうだね蛸狩は成功したかいと聞くのが常になっていたくらいである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
第一だいちああ忙がしくしていちゃ、頭の中に組織立ったかんがえのできるひまがないから駄目です。あいつの脳と来たら、ねん年中ねんじゅう摺鉢すりばちの中で、擂木すりこぎき廻されてる味噌みそ見たようなもんでね。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
または山陰地方も但馬たじまから西の方では、この晩だけは二十三夜とは言わずに、大師講といいまたはその大師の昔話によって、跡隠あとかくしとか擂木すりこぎ隠しとか、その他いろいろの珍しい名を以て呼んでいる。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ただ年が年中足を擂木すりこぎにして、火事見舞に行くんでも、葬式の供に立つんでも同じ心得で、てくてくやっているのは、本人の勝手だと云えば云うようなものの、あまり器量のない話であります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるいはまたその貧しい家の婆が、足は擂木すりこぎのように指のない片輪であった。これではこの女の所業ということがすぐあらわれる故に、雪を降らせて足跡を隠して下されたのだという処も少なくない。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)