かか)” の例文
水に臨んでは、母屋おもやの亭館が建ちならび、山にっては、あるじの書楼が、窓を放って、いましがた、灯をかかげたらしく、新鮮なまたたきを見せていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その中に三体詩の零本があったから、枕頭の灯をかかげて、『行尽江南数十程、暁風残月入華清』などという詩を繰返し繰返し読んでいる中につい夢地に入った。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
「心灯をかかげきたりて天地の活書を読め」とは、余が『妖怪学講義』の巻頭に題したる語である。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
この句の作者は灯をかかげて起きているわけではない。終夜ともして置く灯を有明の灯という。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
とぼそ落ちては月常住じやうぢゆうともしびかかぐ——と、云ふところを書くところが、書いてありました。
一人の無名作家 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
智定房の乗った船は小さいもので、しかも乗るとともに外から戸を釘で打ち付けさせて日光の見えぬようにし、僅かに一穂の孤灯をかかげ、三十日分の食物を用意しただけであつたと云う。
本朝変態葬礼史 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
いかになりつるやと、あるひはあやしみ、或は恐る恐る、一八二ともし火をかかげてここかしこを見めぐるに、明けたる戸腋とわきの壁に一八三なま々しきそそぎ流れて地につたふ。されどしかばねほねも見えず。
鶴巻町の新開町を過れば、夕陽せきようペンキ塗の看板に反映し洋食の臭気芬々ふんぷんたり。神楽坂かぐらざかを下り麹町こうじまちを過ぎ家に帰れば日全くくらし。燈をかかげて食後たわむれにこの記をつくる。時に大正十三年甲子かっし四月二十日也。
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
双頭そうとう牡丹燈ぼたんとうかかげて前導ぜんどうし、一うしろしたが
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
吾れきたつてとうかかげて往昔を思ふ