こだわ)” の例文
歌よみは文法だの語格だの詠み方だのと、から威張に威張り、ひたこだわりに拘りて、無趣味なる陳腐なる歌のみを作りしにあらずや。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
無欲で物にこだわらないところも、ひょうひょうと楽天的なところも、ただ三男の又三郎だけは口が達者で、四人分を独りでひきうけたように饒舌しゃべ
ひやめし物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ものにこだわり過ぎた俗な思想であって、いくら春の水が美しいと言ったところで、その水上が柳の木から流れ出ているであろうというのは理窟である。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
腹稿すでに成り、これを目付の巡獄者に訴うれども、獄吏はこだわるに故事を以てし、筆墨を与えず、ここを以て果たさず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「天下大変の場合、左様な私情にこだわっておられましょうや。無用な御心配じゃ!」と、喝破した。
仇討禁止令 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
如何なる形も色も模様も彼らの前に開放される。どれを選ぶべきか、定められた掟はない。それが何の美を産むか、かかることにこだわる心さえ有たぬ。しかし誤りはない。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
なんのこだわりもしらないようなその老人に対する好意がほほに刻まれたまま、たかしはまた先ほどの静かな展望のなかへ吸い込まれていった。——風がすこし吹いて、午後であった。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
とくに春はこの気持がつよい。獲物えものあさるようなつもりで古典の地へ行きたくないものだ。その時その折のぐな心でみ仏に対すれば、仏像は何のこだわりもなく抱擁してくれる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
むしろ、潜在意識などというものにこだわることは、一ツの障碍にすらなっていますよ。
遊所に足を容るることをば嫌わず、物にこだわらぬ人で、その中に謹厳な処があった。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
もし純粋に前者であるならば、我々は「つひに一夜ひとよさも家の下で寝たことのない」、そうして産後幾日も経ずして「雪の蒲団に添乳そえぢする」この旅の女に、こだわりなく同感することができるであろう。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
血気の頼正は物にこだわらず、じかに灘兵衛へ言葉をかけた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「なにも理由がないと云っているのに、そんなにこだわるやつがあるか、それより本当におまえがゆくのなら、あの女に用心しなければいけないぞ」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ここらは手のさきの器用をろうし、言葉のあやつりにのみこだわる歌よみどもの思ひ至らぬ所に候。三句切さんくぎれの事はなほ他日つまびらかに可申候へども、三句切の歌にぶつつかり候故一言致置いたしおき候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
が、恥じながらも、それにこだわらずにはおられなかった。彼は、オランダの事物、学術、ことに医術に対する知識欲にかつえながら、妙な意地から、心のままに質問することができなかった。
蘭学事始 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
写生々々とやかましく言うておるうちは、写生ということが際立きわだって響いて、写生はしながらも写生にこだわっているような心もちがしていくらか疲労を感じる。この事がずいぶん永く続くのである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ここらは手のさきの器用をろうし言葉のあやつりにのみこだわる歌よみどもの思い至らぬ場所に候。三句ぎれのことはなお他日つまびらか可申もうすべく候えども三句切の歌にぶっつかり候ゆえ一言致置いたしおき候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)