戸締とじまり)” の例文
夢とは思わないが不思議に女の素性すじょうとか、きちんと締めてある戸締とじまりをどうして開けて来るだろうかと云うような現実的な疑問はおこらなかった。
岐阜提灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いつ侵入してくるかもしれない! 女幽霊はどんな厳重な戸締とじまりでも平気で入ってくる! 女幽霊をいくら追いかけても追いつけるものではない
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そんなら断然いよいよ今晩は来ないときまりましたね。ぢや、戸締とじまりして了ひませうか、ほんに今晩のやうな気の霽々せいせいした、しんの底から好い心持の事はありませんよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
先に這入つた年上の僧が目食めくはせをすると、あとから這入つた若い僧が五郎兵衛を押しけて戸締とじまりをした。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この深夜に人間が案内も乞わず戸締とじまりずして御光来になるとすれば迷亭先生や鈴木君ではないにきまっている。御高名だけはかねてうけたまわっている泥棒陰士どろぼういんしではないか知らん。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
逡巡しりごみをする五助に入交いれかわって作平、突然いきなり手を懸けると、が忘れたか戸締とじまりがないので、硝子窓がらすまどをあけてまたいで入ると、雪あかりの上、月がさすので、明かに見えた真鍮しんちゆうの大薬鑵。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
戸締とじまりに異状のないことは昨日の通り、召使達が何も知らぬことも昨日の通りである。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もうるのだろうか、イヤそうではない、今ヤット九時をすこし過ぎたばかりである。それに試験中だから未だ寐ないのにはきまっている。多分淋しい処だから早くから戸締とじまりをしたのだろう。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
とお繼は表の戸締とじまりようと致しますると、表から永禪和尚が忍んで参りまして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それから平八郎、格之助の部屋の附近に戸締とじまりをして、塾生を使つて火薬を製させる。棒火矢ぼうひや炮碌玉はうろくだまを作らせる。職人を入れると、口実を設けて再び外へ出さない。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
驚いて起きあがったが、戸締とじまりも宵のままになっているに係わらず、どこへ往ったのか見えない。戸外そとへ出て探そうにも、家の前はすぐ深山になっていて不用意には探せない。
美女を盗む鬼神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
御三はその平常より赤き頬をますます赤くして洗湯から帰ったついでに、昨夜ゆうべりてか、早くから勝手の戸締とじまりをする。書斎で主人が俺のステッキを枕元へ出しておけと云う声が聞える。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夫人は深夜戸締とじまりをかってに開けて入って来た闖入者ちんにゅうしゃとがめずにはいられなかった。
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは一室ひとましかないような小さな寺で、戸締とじまりのない正面の見附みつけの仏壇の上には黒くすすけた金仏かなぶつが一つ見えていた。庭は荒れて雑草が生えていた。武士は何人たれかいないかと思って見附へ往った。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)