まどい)” の例文
ただ躊躇ちゅうちょする事刹那せつななるに、虚をうつ悪魔は、思うつぼにまよいと書き、まどいと書き、失われたる人の子、と書いて、すわと云うに引き上げる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蕉門しょうもんの著書といへども十中八、九は誤謬ごびゅうなり。その精神は必ずしも誤謬ならざるも、その字句はその精神を写す能はずして後生こうせいまどいを来す者比々ひひ皆これなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
貴様、運命の鬼が最もたくみに使う道具の一は『まどい』ですよ。『惑』はかなしみくるしみに変ます。苦悩くるしみを更に自乗させます。自殺は決心です。始終まどいのために苦んで居る者に、如何どうして此決心が起りましょう。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
出しておおいに世のまどいこう
平民道 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
起してやらなくっては悪いような、また起しては身体からださわるような、分別ふんべつのつかないまどいいだいて腕組をした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
世人皆俳句の発達せる今日の心を以て古池の句をる、故にまどいを生ず。今俳句いまだ発達せざるいにしえに身を置きて我言を聴かば、必ずやうたがいを解くことを得ん。客曰く、唯々いい
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかし今の彼の苦悩はみずから解く事の出来ないまどいである
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
しかるに近来出来たる活字は無学なる人の杜撰ずさんに作りしものありと見えて往々偽字ぎじを発見する事あり。せめては活字だけにても正しくして世のまどいを増さざるやうしたき者なり。(三月五日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)