律動リズム)” の例文
以上述べたところを約言してみると、連句は音楽と同じく「律動リズム」と「旋律メロディー」と「和声ハーモニー」をその存立要件として成立するものである。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ファランドルのように何度も繰り返し引きつづく律動リズムをもって、蜿蜒えんえんとつづいてる険しい小山を、曲がりくねって降りてゆく列車。
太古の祖先等は、出生と死——発生と更新の律動リズムを大きな宇宙の波動と感じて生活していたに違いありません。
われを省みる (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
蓄音器の律動リズム、カスタネットの足踏み、女たちの合唱、自動車はせ交い灯光はきらびやかに、巷は今春宵の一刻を歓楽の中に躍り狂おうとしているところであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
苦と樂とが律動リズム的に交替起伏して居るのでありますから、此苦樂の律動の交替の間に於ても、尚ほ、前に擧げたる三個の類型中の孰れかゞ、全くか、若くは重もにか
学究漫録 (旧字旧仮名) / 朝永三十郎(著)
律動リズムが自らの不変のいはば機械的な歩みをあくまで肯定しつつ、しかもその事物の在り方に従つて表現し得た時には、あだかも不変の自然がわれわれの自由意志を肯定せる時の如く
演劇論の一方向 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
それから句一つ一つの律動リズムをも思いきざんでみたが、それよりは主要なモティーフ、わけても作全体における巻と巻との連絡、一巻における章と章との連絡、一章における節と節との連絡
ですから、曲が終って、私の手足が再び動きはじめてからも、私の耳には、チャペルは聴えず、絶えずあのおんを持たない、快い律動リズムだけが響いてくるのでした。ところが、その時でございます。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
けれども同じ事を繰返すうちに、子供の遊戲心は反覆の律動リズムにぴつたりとはまつてしまつた。三度目に來た時は、大事にいてゐた自動車を、三田の部屋と縁側との間の敷居の溝に走らせて見せた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
△自然(生活もその一部分)——律動リズム——俳句的詠出。
其中日記:06 (六) (新字旧仮名) / 種田山頭火(著)
しかしよく聞いてみると、だいたいの音の抑揚アクセント律動リズムが似ているだけで、母音も不完全であるし、子音はもとより到底ものになっていない。
疑問と空想 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
また多くは、一つの声音、街路を通る一人の男、風の音、内心の律動リズム、など些細ささいなものからにわかに呼び起こされる、ほのかな明滅する感覚。
それには心動のような律動リズムがあって、四人の胸近くにいる思いがした。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それらから生ずる律動リズムを、より深く思い刻んでみた。
納屋なやの中の連枷からざおの不規則な律動リズムが聞こえていた。そして、万象のかかる平和の中にも、無数の生物の熱烈な生活が満々と流れつづけていた。
この詩形が国語を構成する要素としての語句の律動リズムの、最小公倍数とか、最大公約数とかいったようなものになるという、そういう本質的内在的な理由もあったであろうが、また一方では
俳句の型式とその進化 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼らは彼を塗りたて、彼にリボンを結びつけ、彼の律動リズムに真綿を着せ、印象派的色彩で、淫逸いんいつ頽廃たいはいの色でその音楽を飾りたてていた……。
それはちょうど、馬と鳥とを同じ車につなごうとするようなものであった。言葉と歌とはそれぞれ自分の律動リズムをもっている。
律動リズム和声ハーモニーとの珍しい発見物、光沢こうたくのある柔らかい精緻せいちな織物の配列、色彩の絢爛けんらん、発明力と機智との不断の傾注、などを認めざるを得なかった。
音楽は彼女にとって、音と律動リズムと調子との連続であって、彼女はそれを正確に聴き取りまたは暗誦してるのみだった。
幸福は世界の律動リズムの一瞬間であり、生の振子が往来する両極の一つである。その振子を止めんとするには、それを破壊しなければならないだろう……。
室内に蟄居ちっきょしてしびれがきれたら、律動リズムを創作しにでも出かけるがいい! パリー人らのように動きのない微細な和声ハーモニーと混和させるには、もってこいだ!
呑噬どんぜい獅子ししである。ひしひしと寄せてくる虚無を打倒している。そして戦いの律動リズムこそ最上の諧調かいちょうである。この諧調は命数に限りある汝の耳には聞き取れない。
彼は振子の軸の動かない地点に身を置いているが、振子は動きだしていた。そして彼はその動きについて行くことをしないで、生の律動リズムの音に喜んで耳を傾けた。
そして、通俗的な旋律メロディー律動リズム、異国的な古い音階、あるいは新しいあるいは改新された種々の音程など、世界のあらゆる水を、ヴェルサイユの池に引き入れていた。
水のささやきは彼女の夢想をゆすり、彼女は知らず知らずに、自分の歩みの律動リズムを小川の歌に合わしてゆく。
彼はもう明確の要求に支配されていた。彼の天才は生涯しょうがい中、ある交流的律動リズムに従ってきたのだった。
そのふしは感傷的なかつ道化どうけた気分のもので、あたかも哄笑こうしょうで句読づけられたかのようなごつごつした律動リズムをもっていた。その強烈な滑稽味にはとても抵抗できなかった。
音楽家は音楽ばかりで養われてるものではない。人間の言葉の抑揚、身振りの律動リズム、微笑の諧調かいちょう、などはみな音楽家に、仲間の者の交響曲シンフォニー以上の音楽を暗示するのである。
君の心の律動リズムが君の書くものを奪い取るようにしたまえ。文体とは魂にほかならないのだ。
そのうちに、客車の車輪と弾機ばねとの単調な動揺は、しだいに彼を落ち着かせ、あたかも音楽から起こされる波が力強い律動リズムにせきとめられるように、彼の精神を支配していった。
河水の騒々しい基調の上に、急調の律動リズムが激しい愉悦をもって飛び出してくる。
彼は大洋の音を響かす貝殻かいがらに似ていた。主権的な律動リズムに導かれてる、らっぱの呼び声、音響の颶風ぐふう、英雄詩的喚声が、通りすぎていった。なぜなら、彼の朗々たる魂の中ではすべてが音響に変化した。