建前たてまえ)” の例文
絶対に侵入するを許さざる建前たてまえにより、戒厳令中かいげんれいちゅうは、たとえ黒馬博士なりとも、ベトンを越えて日本要塞内に入ることを許されず。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
阿波屋の離れ座敷を普請ふしんすることになって、あっしがその建前たてまえをあずかったんでございます。……このほうにはべつに話はございません。
顎十郎捕物帳:24 蠑螈 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あの物さびたところが何とも言われません、建前たてまえにこうして渋いところを見せ、間取りにはぜいらしておいて、茶室や袖垣のあんばいに
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
建前たてまえの日に招待された。そこで小城の妻の顔を見た。紫の袴を見てから、二十年も経つ。へんてつもない中年の女で、五郎にはもう興味がなかった。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
それでも亜米利加へ上陸あがると二人とも急に元気になりましてね。聖路易セントルイスへ着くと直ぐに建前たてまえにかかりやした。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まあ、吾家うちでも先月の三日に建前たてまえ手斧始ちょうなはじめをしたが、これで石場搗いしばづきのできるのは二百十日あたりになろう。和宮かずのみやさまの御通行までには間に合いそうもない。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今度隣りに地所を買って建前たてまえを急ぎ、このたび落成らくせいしたので、壁一切を請負うけおった関係上、黒門町の壁辰も、二、三の弟子をれて、きょうの棟上むねあげに顔を出している。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
わたくし此方こちらへお供をして参りましたが、何分御普請が此の通りでらちが明きませんし、建前たてまえが済んで造作ぞうさくになってから長くって、折角片付いてもまた御意に入りませんで
喧嘩しなくてよいという建前たてまえであったが、喧嘩はそんなこととは別に起った。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
半之丞はちょうど一里ばかり離れた「か」の字村のある家へ建前たてまえか何かに行っていました。が、この町が火事だと聞くが早いか、尻を端折はしょも惜しいように「お」の字街道かいどうへ飛び出したそうです。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何か目的あってこの土地へ建前たてまえをするもののように見受けられました。ことにそれは、川に沿うて水の流れを利用するらしい計画であります。
地取りが終ると、磨組みがきぐみの同心は大工どもを急がせて、試射の標的になる小屋の建前たてまえにかかった。
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
煩悩に対するに煩悩をもってする——という建前たてまえから、自分は女色煩悩を漁って来たのだが、それすらをすべて解脱げだつした宗七に、たった一つ残っている煩悩の二字は? それは
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大湊は神代からの因縁いんねんのある古い古い船着ふなつきであります。この小屋なども百年を数える古い建前たてまえであって、磯の香りや木の臭気でむしむしと鼻をつのでありました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
国家的な建前たてまえがあったればこそで、解除になった以上、どう理由をつけたって、これ以上こんなところに住んでいるわけにはいかない……なまじい、下手な工作をしたりすると
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
席の建前たてまえから、お客様といったようなものを一わたり見渡してから、改めてまた太夫さんの方を見直すと、これは浪人風の態度の男で、黒い被布ひふを着ているところが
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
地形地均じぎょうじならしから建前たてまえまで、みんな、わしら一人の手でやってみてえと、こう思ってるんでございます——お嬢様からお咎めのあった時、わしら一人が罪をきるつもりで……
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
びた公がそそのかした建前たてまえを聞いてみると、今日の正七ツ時——悪食の会、ところは三輪の金座——というところになっていて、神尾もそれを先刻御承知のもののように
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いや、どうもおかげさまで、大へんによい学問を致しました、まことに結構な建前たてまえで……」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)