居心いごころ)” の例文
「しかし前の部屋よりは、広くもあるし居心いごころいし、不足を云う理由はないんだから、——それとも何かいやな事があるのかい?」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
またぼうとなって、居心いごころすわらず、四畳半を燈火ともしび前後まえうしろ、障子に凭懸よりかかると、透間からふっと蛇のにおいが来そうで、驚いてって出る。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「僕の立場も少しは察してくれ給え。今度君が帰らなければガヷナーはイヨ/\僕を君の傀儡かいらいと思い込む。僕だって辛いぜ。居心いごころが悪くなるばかりだ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
居心いごころは何の様だろう、何の様な事柄に出会すだろうと此の様に怪しんで、其の当日宴会の刻限より余ほど早く、未だ午後五時に成らぬうち汽車で塔の村へ着いた
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ことに私を始め同行中に横文字読む人で蘭文を知らぬ者はないから、文書言語で云えば欧羅巴ヨーロッパ中第二の故郷にかえったようなけで自然に居心いごころい。れは扨置さておき和蘭滞留中に奇談がある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それでも建物が比較的落着きのいいのと木や石のかなりに入っている庭のさびのあるのが、前に入った家よりかいくらか居心いごころがよかった。東京風の女中の様子も、そんなにぞべぞべしてはいなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
彼はその部屋へ大きな西洋机デスクや安楽椅子の類を持ちこんで、見た眼には多少狭苦しいが、とにかく居心いごころは悪くない程度の西洋風な書斎をこしらえ上げた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
にこにこ笑いながら、縮緬雑魚ちりめんざこと、かれい干物ひものと、とろろ昆布こんぶ味噌汁みそしるとでぜんを出した、物の言振いいぶり取成とりなしなんど、いかにも、上人しょうにんとは別懇べっこんの間と見えて、つれの私の居心いごころのいいといったらない。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「誰か出て来てくれないと居心いごころが悪いよ」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「しかし居心いごころは悪くない住居じゃ。寝所ねどころもお前には不自由はさせぬ。では一しょに来て見るがい。」
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おれを弥次郎兵衛は難有ありがたい。居心いごころよし、酒は可。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは一つにはその倶楽部はトックの属している超人倶楽部よりもはるかに居心いごころのよかったためです。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
案内に応じて通されたのは、日当りのい座敷だった。その上主人が風流なのか、支那シナの書棚だのらんの鉢だの、煎茶家せんちゃかめいた装飾があるのも、居心いごころい空気をつくっていた。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)