奈何いかに)” の例文
こたびの道づれははしため一人のみ。例の男仲間は一人だになし。かく膽太く羅馬拿破里の間を往來ゆききする女はあらぬならん、奈何いかになどいへり。
おそのさんの談話の如きは、もとより年月日をつまびらかにすべきものに乏しい。わたくしは奈何いかにして編年の記述をなすべきかを知らない。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
内界は悲恋をかもすの塲なる事を知りながら、われは其悲恋に近より、其悲恋に刺されん事を楽しむ心あるを奈何いかにせむ。
松島に於て芭蕉翁を読む (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
嗚呼何んたる事ぞ、此傾向にして底止する処なくんば、日本の社会は遂に二十世紀の元禄時代と化するの他は無からん。然らば国家の前途を奈何いかにせん。
警戒すべき日本 (新字旧仮名) / 押川春浪(著)
何うも御尊父さまの御腹立ごふくりゅうの処はかねて承知致し罷り有るが、実は茂之助殿の儀に就いて奈何いかにとも詮術せんすべ有る可からざる処の次第柄に至りまして、何とも申し様も有りません
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
燕王謀って曰く、吾が兵は甚だすくなく、彼の軍は甚だ多し、奈何いかにせんと。朱能進んで曰く、ず張昺謝貴を除かば、く為す無き也と。王曰く、よし、昺貴へいきとりこにせんと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
思うてここに至るごとに、そぞろに懐旧のなんだとどめがたきを奈何いかにせん。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
(歐洲人は思郷病は山國の民多くこれをわづらふとなせり。)されど又ヱネチアのわが故郷ならぬを奈何いかにせむ。われは悵然ちやうぜんとして此寺の屋上やねより降りぬ。
其故如何となれば、彼は暗々裡に仏国想フレンチ・アイデアになひ入れて、奇抜は以て人を驚かすに足りしかども、遂に純然たる日本想の「一口剣」に及ばざるを奈何いかにせむ。
奈何いかにといふにその敵手の復た言はざるは、言ふべき理なきがためにあらずして、理あれども敢て言はざるがためにはあらずやと疑ふものもあるべければなり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
奈何いかにといふにサンタもアヌンチヤタが品性の高尚なると才藝の人にすぐれたるとをば一々認むといひたればなり。
しかれども今の世のありさまは、文を論ずる人に理を説かしむるを奈何いかにせむ。こはわれ一人の上にはあらじ。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
ゆゑ奈何いかにといふに、術といふ語には極致を求むるが如き義を含みたればなり。畫は宜しく造化を寫すべし。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
為政以徳まつりごとをなすにとくをもってすれば譬如北辰たとえばほくしんの居其所そのところにいて而衆星共之しゅうせいのこれにむかうがごとし」というのは、ひとり君道をしかりとなすのみではない。人は皆奈何いかにしたら衆星がおのれむかうだろうかと工夫しなくてはならない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
われは心ともなくそのおもてを見しに、この女官にょかんはイイダ姫なりき。ここにはそもそも奈何いかにして。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
わたくしは蘭軒が初め奈何いかにして頼菅二氏にまじはりれたかをつまびらかにすること能はざるをうらみとする。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
夜の舞臺ときびしく使はれ、芝居の化粧部屋に入りてこそ紅粉をも粧ひ、美しき衣をも纒へ、場外にてはひとり身の衣食も足らず勝なれば、親腹からを養ふものはその辛苦奈何いかにぞや。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
夜の舞台ときびしく使はれ、芝居の化粧部屋に入りてこそ紅粉をも粧ひ、美しき衣をも纏へ、場外にてはひとり身の衣食も足らず勝なれば、親腹からを養ふものはその辛苦奈何いかにぞや。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
茶山は肜日のかたはらに線を加へて「八島戦之後四日也」と註してゐる。しかし屋島の戦は二月であつた。然らば壇浦の戦は奈何いかにと云ふに、これは又三月二十二日より遅れてゐるやうである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
けふ着きたまひしことなれば、『ピナコテエク』、また美術会の画堂なども、まだ見玉はじ。されどよそにて見たまひし処にて、南独逸ドイツを何とか見たまふ。こたび来たまひし君が目的は奈何いかに
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)