天幕てんまく)” の例文
人魚のひいさまは、天幕てんまくにたれたむらさきのとばりをあけました。うつくしい花よめは、王子の胸にあたまをのせて、休んでいました。
余は一個の浮浪ふろう書生しょせい、筆一本あれば、住居は天幕てんまくでもむ自由の身である。それでさえねぐらはなれた小鳥の悲哀かなしみは、其時ヒシと身にみた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
天幕てんまくの中で今日の獲物をあつものの中にぶちこんでフウフウ吹きながらすするとき、李陵は火影ほかげに顔を火照ほてらせた若い蕃王ばんおうの息子に、ふと友情のようなものをさえ感じることがあった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
こずえにのみ一團いちだんがあつて、みき丁度ちやうど天幕てんまくはしらのやうに、數百間すうひやくけん四方しほう規則正きそくたゞしくならんで奇妙きめうはやししたくゞつたりして、みち一里半いちりはんあゆんだとおもころ一個いつこいづみそばた。
ホートンは少しの躊躇もせず天幕てんまくの口の垂布をかかげて内部なかへスルリと這入り込んだ。信心深かそうな老夫婦が、急拵らえのかまどの前で夕飯の仕度をしていたが驚いたように振り返った。
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
仏蘭西フランス人のスリエというのが、天幕てんまくを張って寺内で興行しました。曲馬の馬で非常にいいのを沢山外国から連れて来たもので、私などは毎日のように出掛けて、それを見せてもらいました。
寺内の奇人団 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
天幕てんまくばりながら源一の一坪店は、はんじょうしている。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さびしい天幕てんまくが砂地の上にならんでゐる。
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
斯くて四里をあゆんで、午後の一時渓声けいせい響く処に鼠色ねずみいろ天幕てんまくが見えた。林君以下きながしのくつろいだ姿で迎える。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
王子がうつくしい花よめにくちびるをつけると、王女は王子の黒い髪をいじっていました。そうして、手をとりあって、きらびやかな天幕てんまくのなかへはいりました。
天幕てんまくばりの店である。しかし、店内は、にぎやかだ。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
駒場こまばの壮年の林学士。目下ニオトマムに天幕てんまくを張って居る。明日関翁と天幕訪問の約束をする。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
船のまん中には、王家ご用の金とむらさきの天幕てんまくが張れて、うつくしいしとねがしけていました。花よめ花むこが、そこですずしい、しずかなひと夜をおすごしになるはずでした。
と、路傍の天幕てんまくから、勇ましい声がした。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)