“夜遁(よに)” の例文
どこへ引越(ひっこ)される、と聞きましたら、(引越すんじゃない、夜遁(よに)げだい。)と怒鳴ります仕誼(しぎ)で、一向その行先も分りませんが。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おかみさんが負債の方へは夜遁(よに)げでもするやうにして、さういふ中へ帰つて行かれるのは、どんなにか辛かつたやうであつた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
野田(のだ)へ醤油屋奉公(しやうゆやばうこう)に行(い)つてゝ餘(あんま)り飯(めし)食(く)ひ過(す)ぎたの原因(もと)で眼(め)へ出(で)たなんていふんですが、廿位(はたちぐれえ)で潰(つぶ)れつちやつたんでさ、さうしたらそれ打棄(うつちや)つて夜遁(よに)げ見(み)てえせまるで
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あんな派手な妓(こ)が落籍祝(ひきいわい)どころじゃありません、貴郎(あなた)、着換(きがえ)も無くしてまで、借金の方をつけて、夜遁(よに)げをするようにして落籍(ひい)たんですもの。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いや、夜遁(よに)げ同然な俄発心(にわかほっしん)。心よりか形だけを代えました青道心でございます。面目の無い男ですから笠は御免を蒙(こうむ)ります。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこでお前(め)さん、何だって、世帯をお仕舞(しめ)えなさるんだか、金銭ずくなら、こちとらが無尽をしたって、此家(ここ)の御夫婦に夜遁(よに)げなんぞさせるんじゃねえ、と一番(いっち)しみったれた服装(なり)をして
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……骨董屋は疾(とう)に夜遁(よに)げをしたとやらで、何の効(かい)もなく、日暮方(ひぐれがた)に帰ったが、町端(まちはずれ)まで戻ると、余りの暑さと疲労(つかれ)とで、目が眩(くら)んで、呼吸(いき)が切れそうになった時、生玉子を一個(ひとつ)買って飲むと
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
酒で崩して、賭博(ばくち)を積み、いかさまの目ばかり装(も)った、己(おの)の名の旅双六(たびすごろく)、花の東都(あずま)を夜遁(よに)げして、神奈川宿のはずれから、早や旅銭なしの食いつめもの、旅から旅をうろつくこと既にして三年越(ごし)。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)