唐人髷とうじんまげ)” の例文
青銅からかねの鳥居をくぐる。敷石の上に鳩が五六羽、時雨しぐれの中を遠近おちこちしている。唐人髷とうじんまげった半玉はんぎょく渋蛇しぶじゃをさして鳩を見ている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
唐人髷とうじんまげの、つややかなのと、花櫛はなぐしばかりを見せているように、うつむいてばかりいる娘は、その時顔をあげて、正面に美妙斎と眼を合わせた。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ねんばかりまへにうせたる先妻せんさいはらにぬひとばれて、いま奧樣おくさまにはまゝなるあり、桂次けいじがはじめてときは十四か三か、唐人髷とうじんまげあかれかけて
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この暑いのに振袖で、帯を猫じゃらしに結び、唐人髷とうじんまげきん前差まえさしをピラピラさせたお美夜ちゃん、かあいい顔を真っ赤にさせて、いっぱいの汗だ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
唐人髷とうじんまげに結って死にたいと言っていたので、息を引き取ってから、母は頭をひざのうえに載せ、綺麗きれいに髪をいて唐人髷に結いあげ、薄化粧をして口紅をつけたりした。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と呑みこんで、唐人髷とうじんまげに色ざんざらをたッぷりと掛け、たぼをねり油で仕上げました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつにない髪を唐人髷とうじんまげに結うて、銘仙の着物に、浅黄色の繻子しゅすの帯の野暮やぼなのもこの人なればこそよく似合う。小柄な体躯からだをたおやかに、ちょっと欝金色うこんいろ薔薇釵ばらかざしを気にしながら振り向いて見る。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
板〆縮緬いたじめぢりめんうぐいす色の繻子しゅす昼夜帯はらあわせを、ぬき衣紋えもんの背中にお太鼓に結んで、った唐人髷とうじんまげに結ってきたが、帰りしなには
今の奥様にはままなるあり、桂次がはじめて見し時は十四か三か、唐人髷とうじんまげに赤き切れかけて、姿はおさなびたれども母のちがふ子は何処やらをとなしく見ゆるものと気の毒に思ひしは
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お美夜ちゃんは恥ずかしそうに、唐人髷とうじんまげの頭を、まんべんなくまわりへ下げる。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
けろんとして、鏡台のまわりの紅皿や白粉おしろいつぼ、釘にかけてある三味線や赤い長襦袢ながじゅばん浅黄繻子あさぎじゅすの衣裳、または金糸の元結もとゆいをたッぷりかけた相手の人の唐人髷とうじんまげなどを、物珍しげに見廻している。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ唐人髷とうじんまげに結っていた十幾歳いくつかの、乏しいお小遣いで、親に内密で買った湖月抄の第二巻門石の巻の一綴りに、何やかや、竹柏園先生のお講義も書き入れてあるのを