吉次きちじ)” の例文
侍「これ吉次きちじ、少々明神下に買物があるから、遅くなるかも知れんから先へ帰って、旦那様はあとからぐに帰ると御新造ごしんぞにそう云え」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
旅商人たびあきゅうどが、堀井弥太では、おかしかろう。——一年に一度ずつ京都みやこ顧客とくい廻りに来る、奥州者の砂金売かねう吉次きちじとは、実は、この弥太の、ふたつ名前だ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ときにはわざと背中合せなかあわせにすわる場合ばあいもままあったが、さて、吉次きちじはやがて舞台ぶたいて、子役こやくとしての評判ひょうばん次第しだいたかくなった時分じぶんから、王子おうじったたがいおや
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「それというのも大切な雄蝶を、お盗まれになってからでございましょうね」片足の男の名は吉次きちじであり、そうして美女の名は桔梗ききょう様であり、その関係は主従らしい。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その一人は八幡宮神主のせがれ一人は吉次きちじとて油の小売り小まめにかせぎ親もなく女房もない気楽者そのほかにもちょいちょい顔を出す者あれどまずこの二人を常連と見て可なるべし。
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
砂金かね売りの吉次きちじと申しまする。おやかた様か、御奥おんおくかたに、さよう、おつたえ下されば、おわかりでございまする」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たった一人ひとり江戸えどうまれて江戸えどそだった吉次きちじが、ほか女形おやま尻目しりめにかけて、めきめきと売出うりだした調子ちょうしもよく、やがて二代目だいめ菊之丞きくのじょういでからは上上吉じょうじょうきち評判記ひょうばんき
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
浜を誰かうなって通る。あの節廻ふしまわしは吉次きちじだ。彼奴きゃつ声は全たくいよ。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
兵燹へいせんで、半焼けになったまま、建ち腐れになっているおおきな伽藍がらんである。そこの山門へ駈けこんで雨宿りをしていた砂金売かねう吉次きちじは、そっと首を出してみた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)