取敢とりあえ)” の例文
市郎が途中で𤢖わろおそわれたという噂は、早くも隣村まで伝えられたので、吉岡の家でも甚だ心配して、冬子が取敢とりあえず見舞に来たのであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕は何が何だか、まるできつねにつままれた様で、少しも訳が分らなかったけれど、取敢とりあえずそれを読んで見ることにした。
百面相役者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その夜明けのポンコツの知らせを受けて私と吉村君とそれから矢張やはり泊り番だった工夫の三人ばかりとで取敢とりあえずガソリンカーで現場へ出掛けたのです。
(新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
源「えゝ今日こんにちお召によって取敢とりあえまかり出ました、御殿へ出ます心得でありましたが、御当家さまへ出ました」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それではとて取敢とりあえずあなたのお母さんに告げると十八日の朝飛んできました。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「左様ならば取敢とりあえず、そのことをお取定とりきめあってしかるべく存じまする」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私はなんのことだか判らぬながらも、取敢とりあえず彼の申出に従った。
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
取敢とりあえず世話女房の胡瓜もみ
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
塚田巡査は職務上これを捨置すておく訳には行かぬ。取敢とりあえその屍体を町へ運ばせて、おのれその報告書を作る準備にとりかかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
よこして下すったから取敢とりあえず来たがねえ、もう私が来たから案じずに、お前気丈夫にしなければならねえ、もう一遍丈夫に成ってお前に楽をさせなければ済まないよ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こゝに於て花魁の何うも……実に取敢とりあえず即答の御返歌になるてえのは、大概の歌詠うたよみでも出来んことでございますのに、花魁は歌嚢うたぶくろ俳諧嚢何んでも天稟てんぴん備わった佳人かじんなんで
まずの綱をいて市郎を抱えおこすと、彼も所々しょしょに負傷して、脈は既にとまっていた。が、これはたしか血温けつおんが有る。巡査は少しく安堵の眉を開いて、取敢とりあえの綱を強くくと、上ではすぐにおうと答えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かねて贔屓になるコレ/\の主人は大目利おおめきゝであるから、お世話をようという事だから、取敢とりあえまかり出たいと思っても、お宅が分らんと申したら、お寮においでだろうという事で出ましたがね
取敢とりあえずお礼に出ましたが、何んとも何うも恐入りました、有難う存じます
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
山「拝見致して取敢とりあえず立帰りましたが、未だ結納は取替とりかわせますまいな」
重三「只今はお手紙ゆえ取敢とりあえず出ました」