勃然むっ)” の例文
最初は素知らぬ顔をしていたが、こっちの横顔をぬすむように窺いながら三、四間ほども付いて来るので、半七も勃然むっとして立ち停まった。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分が綱を引きさえすれば兵馬などはどうでもなるように、呑みきっている物の言いぶりでしたから兵馬は勃然むっとして
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
末には七蔵れこんで、なんでもかでも来いというたら来い、我の言葉とおもうたら違うぞ円道様為右衛門様の御命令おいいつけじゃ、と語気あらくなれば十兵衛も少し勃然むっとして
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
豆府屋蹌踉よろよろしてふみこたえ、「がみがみうない、こっちあ商売だ。」と少しく勃然むっとする。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
居合わした主人は、思わず勃然むっとして、貰う者の分際ぶんざい好悪よしあしを云う者があるか、としかりつけたら、ブツ/\云いながら受取ったが、門を出て五六歩行くと雑木林ぞうきばやしに投げ棄てゝ往った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
冗談は大概におしよと云って居りましたら、しまいにはひどく酔って来まして、短かいのを抜いて、いう事を聞かなければ是だとおどし始めましたから、私も勃然むっとして、大概におしなさい
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
前の婢に何やら囁いたと見えると、あなた/\とにわかに貞之進を呼戻し、少々で申上げるのでは御在ませんがと云いながら申上げたのは払残の勘定の請求で、貞之進も初めて勃然むっとしたが
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
加之しか先方むこうから真白昼まっぴるま押掛おしかけて来て、平気でおでおでをめるとは、図迂図迂ずうずうしい奴、忌々いまいましい奴と、市郎はあきれを通り越して、やや勃然むっとした。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
芹沢はこういって近藤、土方の面を意地悪く見廻すと、勃然むっとしたのが近藤勇です。愛するところの抜けば必ず人を斬るという虎徹こてつの一刀を引き寄せて
勃然むっとしたていで、島田の上で、握拳の両手を、一度打擲ちょうちゃくをするごとくふって見せて、むっとして男が行くので、はあはあ膝をらし、腰を引いて、背には波を打たしながら、身をうねらせて
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どんな叩き大工が来ても、棟梁株のいゝ人達てあいが来てもおんなしように扱っているんで、中には勃然むっとする者もありますが、下廻りのものは自分達を丁寧にしてくれる嬉しさからワイ/\囃しています。
若崎は勃然むっとして
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
楽屋がせまいので、大勢の人のうしろを通るのは窮屈に相違ないが、あまりに強く蹴られて紋作は勃然むっとした。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とさすがの得三も呆れ果てて、しおれ返れば高田は勃然むっとして
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
嘲笑あざわらいしました。米友は勃然むっとして
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その素振りがなんだか自分たちを軽蔑さげすんでいるらしくも見えたので、お絹はまず勃然むっとした。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)