前褄まえづま)” の例文
でっぷりよく肥えた顔にいちめん雀斑そばかすが出来ていて鼻のあなが大きくひろがり、揃ったことのない前褄まえづまからいつも膝頭ひざがしらが露出していた。
洋灯 (新字新仮名) / 横光利一(著)
お八代さんは前褄まえづまをからげたままサッサと梯子を登って、窓のふちに手をかけながら、矢張やっぱり私と同じようにソロッと覗き込みました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
袷の衣紋えもんの乱れたまま、前褄まえづまを取ったがしどけなくすそを引いて、白足袋の爪先、はらりとこぼるる留南木とめきの薫。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頬の堅さがほぐれて、自分の端たない様子を恥じるように前褄まえづまを合せたりしました。
と云ううちに、そこに落ちていた誰かの手拭を拾って姉さんかぶりにした。それから手早く前褄まえづまを取って、問題の赤ゆもじを高々とマクリ出したので、皆一斉に鯨波ときのこえを上げて喝采した。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
よだれを拭いて、前褄まえづまを直して、直助は何の気もなく舳の方をすかして見ました。
さそくのたしなみで前褄まえづまを踏みぐくめた雪なす爪先つまさきが、死んだ蝶のように落ちかかって、帯の糸錦いとにしき薬玉くすだまひるがえると、こぼれた襦袢じゅばん緋桜ひざくらの、こまかうろこのごとく流れるのが、さながら、凄艶せいえん白蛇はくじゃの化身の
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘は無念さ、恥かしさ。あれ、と前褄まえづま引合して、蹌踉よろめきながらげんとあせる、もすそをお録が押うれば、得三は帯際おびぎわ取ってきっと見え。高田は扇をさっと開き、骨のあいからのぞいて見る。知らせにつき道具廻る。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女はそう言ううちにも、肌を入れて前褄まえづまを直しました。
前褄まえづまを引寄せる。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)