分明はつきり)” の例文
今迄越えて来た山と山との間の路が地図でも見るやうに分明はつきり指点せらるゝと共に、この小嶺せうれいふさがれて見得なかつた前面の風景も
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そんなものは見たくないやうな氣がして——子供だからそれほど分明はつきり不快いやだとは思はなかつたかもしれないが、まあそんな覺えがあります。
鏡二題 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
歌にれて障子の影法師が踊る。妙な手付をして、腰を振り、足を動かす。或は大きく朦乎ぼんやりと映り、或は小く分明はつきりと映る。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
何うもそれが最近独逸から帰つた、社会評論家の大橋三四子であるやうに思へたが、姿だけで顔が見えなかつたので、分明はつきりしたことは判らなかつた。
二つの失敗 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
『けど、もつと分明はつきりへとつたつてそれは無理むりよ』あいちやんはきはめてつゝましやかにこたへて、『でも、わたしはじめッから自分じぶん自分じぶんわからないんですもの、幾度いくどおほきくなつたりちひさくなつたりしたんで、 ...
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
山中の境の自然を慕つたその愚かさが分明はつきり自分の脳にあらはれて来て、山は依然として太古、水は依然として不朽、それに対して
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
その頃には、浅猿しい弱点を弄ばれてゐたことが、次第に分明はつきりして来て、耻と悔とが此上の追求を許さなかつた。
復讐 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
或は大きく朦乎ぼんやりと映り、或は小く分明はつきりと映る。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
不思議にも其岩山は今に至るまで、私の頭に分明はつきりと印象されて残つて居る。私は其山について、いろ/\な想像を逞うした。
草津から伊香保まで (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
あまおほきかつた文壇的名声ぶんだんてきめいせいとらはれてゐたことも分明はつきりしてた。勿論もちろん学窓がくそうなどに落着おちついてはゐられなかつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
自分の眼の前には、その獣の如き自然児が、涙をふるつて、その死骸を焼いて居る光景が分明はつきり見える。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
彼の好意を退しりぞけたのが、生涯の失策だと云ふ気がした。そして其の考へが段々彼女の頭脳あたまに希望と力を与へてくると同時に、彼の周囲や生活を分明はつきり見定めたいと云ふ望みが湧いて来た。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
最近に登つたのが一昨年なので、其印象がまだ分明はつきりと頭に残つてゐる。古い池だの、竹藪の中の路だの、昔の塹壕の跡だの、崖に臨んだ凉しい茶店などが私の眼の前を掠めて通つた。
百日紅 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
それから凡そ何のくらゐの時間を眠つたか、彼にも分明はつきりしなかつた。
女流作家 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
しかしそれだかうだか、分明はつきりしたことはわからなかつた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「は、は……実は昨日もちよつと来て診ましたが、その時は分明はつきりわかりませんでしたが、今診たところによりますと、肺炎でも窒扶斯でもありませんな。原因はよくわかりませんが、脳膜炎といふことだけは確実ですよ、は、は。」
和解 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)