熊野牛王くまのごおうの誓紙には、日本国中の大小神祇じんぎ八幡大菩薩はちまんだいぼさつ愛宕山権現あたごやまごんげん、ところの氏神にも、違背いはいあれば御罰をこうむらんと明記してある。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道場壇上の正面、天照皇大神宮あまてらすこうたいじんぐう八幡大菩薩はちまんだいぼさつ——二柱の御名をしるした、掛軸の前には、燭火が輝き、青々とした榊が供えられていた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
彼はそう云う苦痛の中にも、執念しゅうね敵打かたきうちの望を忘れなかった。喜三郎は彼の呻吟しんぎんの中に、しばしば八幡大菩薩はちまんだいぼさつと云う言葉がかすかに洩れるのを聞いた。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
粗末な板張りの座敷ではあるけれども、枕上まくらがみのところに仮りのとこが設けてあって、八幡大菩薩はちまんだいぼさつじくかゝっている。床脇とこわきに据えた持佛じぶつ厨子ずしには不動明王が安置してある。
一伎あらはれ出でゝ、神がゝりの状になり、八幡大菩薩はちまんだいぼさつの使者と口走り、多勢の中で揚言して、八幡大菩薩、くらゐ蔭子いんし将門に授く、左大臣正二位菅原道真朝臣みちざねあそん之を奉ず、と云つた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
行列のさきに押し立てたのは救民と書いた四はんはたである。次に中に天照皇大神宮てんせうくわうだいじんぐう、右に湯武両聖王たうぶりやうせいわう、左に八幡大菩薩はちまんだいぼさつと書いた旗、五七のきりに二つびきの旗を立てゝ行く。次に木筒きづゝが二ちやう行く。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
井桁いげたの紋じるしを黒くあらわしたは彦根ひこね勢、白と黒とを半分ずつ染め分けにしたは青山勢、その他、あの同勢が押し立てて来た馬印から、「八幡大菩薩はちまんだいぼさつ」と大書した吹き流しまで——数えて来ると
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは白晒布ざらしの地に、八幡大菩薩はちまんだいぼさつ摩利支天まりしてんの名号を書き、また、両の袖に、必勝の禁厭まじないという梵字ぼんじを、百人の針で細かに縫った襦袢じゅばんであった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで衆愚心理を見破つて、これを正しく用ゐるのが良い政治家や軍人で、これを吾が都合上に用ゐるのが奸雄かんゆう煽動家せんどうかである。八幡大菩薩はちまんだいぼさつの御託宣は群衆を動かした。群衆は無茶によろこんだ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
彼らはくに八幡大菩薩はちまんだいぼさつの船旗を下ろしていたが、海洋を見ること平野をるごときたんと、小事に顧みることなく爛々らんらんの眼をたえず海潮の彼方に向けて、男児の業はそこにありとしている気質とは
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)