不遇ふぐう)” の例文
不遇ふぐうを誇称して世の中の有名な人たちに陰険ないやがらせを行うというような、めめしい復讐心から申し上げているのでもないので
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
もっと特別な猛烈な自己である。それがためイブセンは大変迫害を受けたという訳であります。無論事実不遇ふぐうな人でありました。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大谷刑部少輔の遺臣というのが何人か居て、モニカの無事な姿を見、菊丸の不遇ふぐうな最期の話を聞いて、感動したふうであった。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と、不遇ふぐうな心境へ水を向けて引き出し、策をさずけて、伊勢方面へ、隠密おんみつに、別行動をとらしておいたものなのである。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほとんど人間とは思えないこの大才、大徳が、なぜこうした不遇ふぐうに甘んじなければならぬのか。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
環境的かんきょうてき不遇ふぐうに成長した人々は、そのかつて充たされなかった心の飢餓を、他の何物にも増して熱情するため、後に彼が一家の主人となった場合、その妻子の忠実な保護者となり
かれ天性てんせいやさしいのと、ひと親切しんせつなのと、禮儀れいぎるのと、品行ひんかう方正はうせいなのと、着古きぶるしたフロツクコート、病人びやうにんらしい樣子やうす家庭かてい不遇ふぐう是等これらみなすべ人々ひと/″\あたゝか同情どうじやう引起ひきおこさしめたのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
不遇ふぐうであったのをあやしまぬようにこたえました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
龍太郎りゅうたろう温情おんじょうをこめて、不遇ふぐうな女をなぐさめてやると、小文治こぶんじもおととしの春、まだ自分が浜名湖はまなこ漁師小屋りょうしごやにいて、母の死骸しがいをほうむる費用ひようもなく
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれ天性てんせいやさしいのと、ひと親切しんせつなのと、礼儀れいぎのあるのと、品行ひんこう方正ほうせいなのと、着古きぶるしたフロックコート、病人びょうにんらしい様子ようす家庭かてい不遇ふぐう、これらはみなすべ人々ひとびとあたたか同情どうじょう引起ひきおこさしめたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
(否とよ。不遇ふぐうは覚悟のまえである。死ぬ以上生きるは辛いと知る身に、何の待つものがあろう)
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、人に愛をおしえ、不遇ふぐうな子の友だちとなり、人に弓矢ゆみや鉄砲てっぽういがいの人生をさとらせようとこころざしている自分が、その刀をたのみにしたり、その殺生せっしょうをやったりしてはならない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし軍装や兵の表情が、いくらかでもその大将の立場なり性格を反映するものなら、この一ぜいの大将は、よほど何か不遇ふぐうにあるか、不満なのか、とにかく、異常者にちがいなかった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大久保七郎右衛門の息子——新十郎忠隣しんじゅうろうただちかだった。まだよい敵に会わないで、今朝から不遇ふぐうをかこっていたかれは、せっかく、目ざす敵に近づいたとき、あぶみを踏みはずして、落馬しかけた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)