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ぼしよく
しかし
汽車が
今將に
隧道の
口へさしかからうとしてゐる
事は、
暮色の
中に
枯草ばかり
明い
兩側の
山腹が、
間近く
窓側に
迫つて
來たのでも、すぐに
合點の
行く
事であつた。
遠世なる
暮色の
寂に哀婉の
微韻を湛へ
踏切りの
近くには、いづれも
見すぼらしい
藁屋根や
瓦屋根がごみごみと
狹苦しく
建てこんで、
踏切り
番が
振るのであらう、
唯一
旒のうす
白い
旗が
懶げに
暮色を
搖つてゐた。
暮色を
帶びた
町はづれの
踏切りと、
小鳥のやうに
聲を
擧げた三
人の
子供たちと、さうしてその
上に
亂落する
鮮な
蜜柑の
色と——すべては
汽車の
窓の
外に、
瞬く
暇もなく
通り
過ぎた。