黙契もっけい)” の例文
そこで「……いッそのこと」という処置が、みかどを前に、烏丸からすま成輔なりすけ、千種忠顕、坊門ノ清忠、三名の胸で黙契もっけいされたものだった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
当時政治は薩長土の武力によりて翻弄ほんろうせられ、国民の思想は統一を欠き、国家の危機を胚胎はいたいするのおそれがあり、旁々かたがた小野君との黙契もっけいもあり
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
新吉はだんだん夫人と娘の様子を見て居るうちに夫人とも此の娘の出現がかねて何かの黙契もっけいを持って居たのではなかろうかとさえ思われ始めた。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼女と津田の間に取り換わされたこの黙契もっけいのために、津田のこうむった重大な損失が、今までにたった一つあった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは、ジャアナリストのあいだの黙契もっけいにて、いたしかたございませぬ。二十円同封。これは、私、とりあえずおたてかえ申して置きますゆえ、気のむいたとき三、四枚の旅日記でも、御寄稿下さい。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「君はあの児島亀江という女と何か黙契もっけいがあるらしいぞ。」
五色蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「然ういう黙契もっけいになっている」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
すでに藤吉郎と結んでいて、軍事的に加勢はできないが、裏面からおたすけしようという黙契もっけいのもとになされた反間はんかんけいだったのである。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
殊に肉親の脈に於てわれ知らず繋り労っている黙契もっけいの諾き合いというものは確にあることゝ知られ、しかも、こうも意表な表現を辿たどるものとは愕きました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
だから、たとえ足利義昭よしあきかくまおうと、本願寺と通じようと、遠く上杉謙信と或る黙契もっけいをむすぼうと、すべては、中国を守るためだった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう二人のあいだには、旅の間に、広徳寺で約したこととはちがう新たな黙契もっけいができていたのである。——が、市十郎は、知るよしもない。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
絶対に光秀を忌避きひして、光秀を逆賊となす者のある一面には、暗に、彼の聯絡れんらくにたいして黙契もっけいをもってこたえ、情勢の進展とにらみ合わせて
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんの、尊氏成敗のはかりは、宮ご一人いちにんの信念でもなく、かねて父皇にも内々には、ご黙契もっけいと伺っておりまする。いわば尊氏はいま禁中のかごの鳥」
そしてその間に、当然な黙契もっけいやら、反目やら、また流説を用い、誘惑を講じ、抱きこみ、切崩しなど、あらゆる謀略が行われつつあることもおおうべくもない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、これはと思う人物には、何らかの方法で、必ず恩恵を売っておく。或は黙契もっけいをむすんでおく。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるいは、道誉の降参は初めから尊氏との黙契もっけいで行われた二度のとんぼ返りではなかったのか、と。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、主従の黙契もっけいがあったや否やはべつとして、弥太郎は少なくもそれから二、三年間は諸国の武備や築城などを見て廻った。後にいうところの武者修行をしていたのである。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小牧前後から、徳川家と黙契もっけいをもって、頻りに、大坂の留守をおびやかしていた紀州や熊野。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——それは、東国の将門が、攻め上って来るのを待っているのだ。純友と将門とは、十年も前から、世直しをやる約束を結び、天下を二分して、分け取りにする黙契もっけいまで出来ている」
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのいとまもなく、肚と肚との黙契もっけいで今日まで来たのであるが、郡兵衛からその希望が出たのは、要するに、ことばの上だけでは、この両名に対しては、十分な信が持ち得ないのかも知れない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
光秀の一子十次郎は筒井順慶の養子となっていた。当然、こんどの挙には、事前から両家のあいだに黙契もっけいがあったのではないかと考え得られる理由があった。家康はそれを恐れたのである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聞くと、張松は、莞爾かんじとして「実は……」と、あたりを見まわした。そして二人の顔へ、顔を寄せて、許都を去ってから荊州へ立ち寄った事情やら、玄徳とある黙契もっけいをむすんで来た事実を打明けた。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
松平近正は、かねてから、石川数正と、ある黙契もっけいをもっていた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
との黙契もっけいを固く抱きつづけていた。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)