黄檗おうばく)” の例文
臨済りんざいは三たび黄檗おうばくに道をたずねて、三たび打たれた。江西こうせいの馬祖は坐禅すること二十年。百丈の大智は一日さざれば一日くらわず。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ところが、黄檗おうばくの方の坊さんはと見ますと、これは隠元いんげんにしましても、木庵もくあんにしましても、いずれも優美さの点では劣ります。
父はそれで懸物かけものの講釈を切り上げようとはしなかった。大徳寺がどうの、黄檗おうばくがどうのと、自分にはまるで興味のない事を説明して聞かせた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なん坪太郎つぼたろうと名づけ、鍾愛しょうあい此上無かりしが、此男子なんし、生得商売あきないの道を好まず、いとけなき時より宇治黄檗おうばくの道人、隠元いんげん禅師に参じて学才人に超えたり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この半さんが、発心ほっしんして僧となったのは——ある年、宇治黄檗おうばく鉄眼てつげん禅師という坊さんに会ったのが機縁だという。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戴氏独立どくりゅうの表石の事ははじめて聞いた。池田氏の上のみではない。自分も黄檗おうばく衣鉢いはつを伝えた身であって見れば、独立の遺蹟の存滅を意に介せずにはいられない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
元禄享保きょうほうの頃、関西に法眼、円通という二禅僧がありました。いずれも黄檗おうばく宗の名僧独湛どくたんの嗣法の弟子で、性格も世離れしているところから互いは親友でありました。
茶屋知らず物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
のみならず死はいざとなって見ると、玄鶴にもやはり恐しかった。彼は薄暗い電灯の光に黄檗おうばくの一行ものを眺めたまま、未だ生をむさぼらずにはいられぬ彼自身をあざけったりした。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
書斎の壁にはなんとかいう黄檗おうばくの坊さんの書の半折はんせつが掛けてあり、天狗てんぐ羽団扇はうちわのようなものが座右に置いてあった事もあった。セピアのインキで細かく書いたノートがいつも机上にあった。
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
黄檗おうばくを出れば日本の茶摘みかな」茶摘みの盛季さかりはとく過ぎたれど、風は時々焙炉ほうろの香を送りて、ここそこに二番茶を摘む女の影も見ゆなり。茶の間々あいあいは麦黄いろくれて、さくさくとかまの音聞こゆ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
余は書においては皆無鑒識かいむかんしきのない男だが、平生から、黄檗おうばく高泉和尚こうせんおしょう筆致ひっちを愛している。隠元いんげん即非そくひ木庵もくあんもそれぞれに面白味はあるが、高泉こうせんの字が一番蒼勁そうけいでしかも雅馴がじゅんである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黄檗おうばくなどはいうに及ばず、大徳寺の名僧たちでさえ、(春屋禅師などを除いては)殆どすべてがいわゆる僧侶型に縛られている。江月こうげつ和尚の如きでさえ、大体は僧侶型を脱してはいないのである。
老中安藤重行しげゆき、土屋政直の名をもって、龍ノ口の広間に招集され、席には、参考人として、町医の市川楽翁、宇治黄檗おうばくの鉄淵禅師、目付役有馬源之丞、松平藤九郎そのほかもいて、深更にいたるまで
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
引き掛った男は夜光のたまを迷宮に尋ねて、紫に輝やく糸の十字万字に、魂をさかしまにして、のちの世までの心を乱す。女はただ心地よげに見やる。耶蘇教ヤソきょうの牧師は救われよという。臨済りんざい黄檗おうばくは悟れと云う。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)