鮮紅せんこう)” の例文
男は萌黄もえぎのソフトをかぶり、女は褪紅の外套を着け、その後より鮮紅せんこうの帽かむりし二人の男女の小児爽やかに走りゆく。
春の暗示 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
よくれた唇に鮮紅せんこうをさすこと、豐かな髮のあちこちにやはらかな捲毛を描くこと、碧いまぶたの下の睫毛まつげにより深い影をつけることが、まだ殘つてゐた。
さては効無かひなおのれいかりして、益す休まず狂呼きようこすれば、彼ののんどは終に破れて、汨然こつぜんとして一涌いちゆう鮮紅せんこう嘔出はきいだせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
とどろく答えとともに、陣鼓一声、白斑しろまだら悍馬かんばに乗って、身に銀甲をいただき鮮紅せんこうほうを着、細腰青面さいようせいめんの弱冠な人が、さっと、野を斜めに駈けだして来た。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この教会きょうかいからもらったクレオンは、品質ひんしつ上等じょうとうとみえて、あかいろはまったく鮮紅せんこうだったし、むらさきいろも、いつかともだちのいえ孔雀くじゃくはねのようにひかっているし、そしてあおいろ
天女とお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
それを正面のたかき石段いしだんにあおいで、ひろい平地へいち周囲しゅういも、またそれからながめおろされる渓谷けいこくも、四の山もさわ万樹ばんじゅ鮮紅せんこうめられて、晩秋ばんしゅう大気たいきはすみきッている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
真っ黒な旅垢たびあかの下にかくれている、鶏血石けいけつせきのような鮮紅せんこうを持っている日吉の耳だの、若いくせに、一見、老人みたいに見えるひたいしわに、後年の大器がすでにあらわれていたことをも見出して
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
酔うと鮮紅せんこうになって、血のはち切れそうな彼の耳朶みみたぶであった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)