びんずら)” の例文
立って、衣紋えもんを正した時、学士の膝は濡れていた。が、びんずらの梅のしずくではない、まつげのそよぎに、つらぬきとめぬ露であった。——
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分は老年の今日までもその美しい容貌かおかたち、その優美なすずしい目、その光沢つやのある緑のびんずら、なかんずくおとなしやかな、奥ゆかしい、そのたおやかな花の姿を
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
勇美子も夜会結びのびんずらを吹かせ、雨に頬を打たせていとわず、掛茶屋の葦簀よしずから半ば姿をあらわして
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ですかい、」と言いつつ一目ひとめ見たのは、かしら禿かむろあらわなるものではなく、日の光す紫のかげをめたおもかげは、几帳きちょうに宿る月の影、雲のびんずらかざしの星、丹花たんかの唇、芙蓉ふようまなじり、柳の腰を草にすがって
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と斜めになって袖をむと、びんずらそよぎに連立って、たもとさきがすっと折れる。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
礼之進は提革さげかわつかまりながら、人と、車の動揺の都度、なるべく操りのポンチたらざる態度を保って、しこうして、乗合の、肩、頬、耳などの透間から、痘痕あばたを散らして、目を配って、びんずらかんざしひさし
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)